2002年10月18日 パレスチナの内部状況
2002年10月1日 自爆テロ再発/議長の包囲解除


イスラエルからのニュース
2002年10月上旬


<最近のパレスティナの内的状況>

 

1.内部告発

パレスティナ立法評議会委員の一人、ムアヴィエ・アル・マスリ氏がアラブ週刊誌「アル・サビル」で、アラファト議長の腐敗ぶりを非難しています。彼は、かつて1999年に請願書を提出し、汚職を払拭すること、また自由な選挙を実施することを求めました。その請願書を提出した三日後、彼は三人の覆面をしたものたちに襲われ足を撃たれました。

 彼は言います。「どんなことが起こっているのか、だれも明確に知らない。経済的な活動や処置はまったく不明瞭である。しかし、その退廃ぶりは、人を買収するために基金が引き出されているというところに見ることができる。大統領は金や仕事によって人を買収するのに長けている。」

 元パレスティナ国家基金議長、アル・グセイン氏もアラファト議長の腐敗ぶりを非難して言っています。「私は、パレスティナ人民に宛てられた寄金をいかに彼が自分の口座に入れるかを知った。」

 さらに、ジェニン(一つのパレスティナの町)のアラファト議長直轄のパレスティナ武装グループ、ファタハの会計係、アタ・アル・ルマイケ氏は、莫大な寄金が世界中から被害を被ったジェニン住民に寄せられていることを示唆しています。しかし、そのお金が実際に彼らの手に渡ることがなく、消えていることに対して、ジェニンの住民やファタハの役員たちが強い不満を漏らしています。

 

2.アラファト議長の権力配分を求める声

 

主にアメリカからの圧力で行政改革を余儀なくされているアラファト議長に対して、パレスティナ行政委員の一人、マフムッド・アバス(通称:アブ・マゼン)氏は、サウジ・アラビア、エジプト、ヨルダンなどのアラブ諸国の支援を受けて、首相指名と権力の配分を求めています。彼は、一連の武器による闘争は誤りであったという認識を持っており、異なった方法によって事態の打開を図ることを提唱しています。

さらに、そうした権力配分を求める声は、アラファト議長の直轄武装集団ファタハのメンバーやアラファト議長の組織の内部からも上がっています。「本当に何が必要であるかということを彼の周りにいる一部の者たちのためではなく、彼の民のために考えるときである。」「アラファトは偉大な歴史的人物である、しかし政治に関してはだめである。」

 また、一つの新しい動きとして、バッサム・アブ・シャリフ氏は一つの新しい政党「パレスティナ民主党」を設立する計画を立てています。彼の構想によると:イスラエルとの和平合意を呼びかけ、民主的な政府で平等の権利を保障し、立法・行政・司法の三権分立を確立し、さらに自由市場経済をもつ国家の建設を目指すというものです。

 さらに彼の意見では、イスラエルと平和共存するためには、いかなる宗教的過激主義や民族主義にも反対し、真実な民主主義体制を持ったパレスティナ国家が必要である、ということです。また、彼は言います。「この政党は、いかなる形の民族主義やアンティ・セミティズムとも戦う。パレスティナ民主党は、占領に対し戦うことを支持する。また、パレスティナ人に対しても、あるいはイスラエル人に対してであっても、我々は市民に対する攻撃を何時いかなるときであっても反対する。」

 このような、パレスティナ内部からの真実な改革への声は、イスラエル・パレスティナ間の平和共存に対して、ほのかな希望を投げかけるものです。

 

3.パレスティナ自治政府と武装集団ハマスとの対立強化

 

最近になって、パレスティナ自治政府と武装集団ハマスとの間に大きな対立が生じています。以前より、イスラエルとの和平工作に対して反対するハマスは、パレスティナ自治政府の政策に対して、強い不満を表していましたが、一連のアル・アクサ暴動で、双方は連携してテロ活動を行っていました。ところが、テロ活動の停止を求める外部からの圧力により、アラファト議長は、イスラエル領内でのテロ活動停止をハマスに対しても呼びかけざるを得なくなりました。八月になされた、アラファト議長からのイスラエル領内でのテロ活動停止命令に対して、ハマスは公然と拒否し、双方の間に対立の溝が深まっていました。そうした中、パレスティナ人暴動鎮圧警官の司令官であるラジェ・アブ・ラヒヤ氏が、拉致され、殺されるという事件が起こりました。

 それは、去年のアメリカ同時多発テロ事件の後、十月にガザで挙行された、オサマ・ビン・ラーデンを支援するデモンストレーションの場で、イメージダウンを恐れる自治政府側が鎮圧に乗り出し、その際に死傷者を出し、その殺害された人の兄弟が報復として行ったものです。

 自治政府の権威に矢を向けるような行為に対して、アラファト議長は怒り、三千人の警官を動員して犯人の逮捕に向かわせようとしましたが、400人だけがアラファト議長の出動命令に従い、結局は行く手を阻む一般市民と武装したハマスメンバーによって阻止され、失敗に終わりました。

 その翌日、自治政府とハマスとの間で協議がなされ、一時的な停戦合意に達しましたが、依然、犯人引渡しを拒むハマスと自治政府との間に緊張関係が続いています。このことは、ガザにおけるアラファト議長の影響力が失われ、ハマスの力が支配的になっていることを示すものです。

 

4.自爆テロリスト青年の父親の悲痛な訴え

 

 ロンドンで発行されているアラビヤ語新聞「アル・ハヤット」の編集者に送られた、自爆テロリストとして一命を落とした青年の父からの手紙が、エルサレム・ポストに取り上げられていました。

 彼は次のような言葉を持って書き出しています。「この手紙を書き出すに当たり、次に引用する聖なる書にあるアッラーの言葉に優るものはない。『アッラーのために事をなせ、しかしお前たち自身を自らの手で破滅に投げ込んではならぬ。』私はこの手紙を思い悩む心と、とどめもなく流れる涙を持って書いている。今日、私たちはより一層、このコーランの言葉に従い、アッラーのために行動し、自らを破滅に落とし込んでいく行為を慎まなければならない。」

「彼らは、私の息子がイスラエルの一つの町で自爆するように説得した。私の息子の清いからだが、至るところに散らばったとき、私の最後の命のしるしも、希望と生きる望みと共に消え去った。」

 さらに、彼の他の息子も同じように自爆テロとなるようにそそのかされていることを知ったとき、彼の怒りは心頭に達しました。

 「世界で最も尊いものを失い、血にまみれた傷だらけの心を持つ父より、パレスティナ政府の指導者たち、並びにハマス、イスラミック・ジハードの指導者たち、また彼らの宗教的首長たちに向かって言う。彼らは、若者たちを自爆への道に駆り立てることは、敵を阻止し、土地を解放するものではないと知っている。それどころか、そのような行為は、(イスラエルの)侵略行為を強め、そのような軍事行動がなされる毎に、一般市民は殺され、家々は破壊され、パレスティナの村や町は再占拠されているのである。」

 「私は、自爆テロ行為によって我が子を失った、すべての父や母のために問う。いかなる権利によって、そのような指導者たちは、花の時代の青年期にある若者や未成年者たちを死へと送り出すのか?誰が、彼らに私たちの子供たちを誘惑し、死へと駆り立てる、宗教的、あるいはその他の合法性を与えるのか?私は言う、それは『殉教』ではなく、『死』である。言葉を変え、美化することによって、あるいは数千ドルを二度と戻らない青年の家族に支払うことによっては、ショックを和らげることはできないし、すでに起こってしまったことを変えることはできない。殉教者の家族に支払われるまとまったお金は、いやしよりも痛みの原因となるだけである。彼らはその家族が、彼らの子供たちの命によって報われたという感覚を与えるが、果たして子供たちの命は、お金で計れるものなのであろうか?死が権利を回復し、土地を解放する唯一の道となったのであろうか?

 もしも、そうであるなら、なぜ競って熱狂的な呼びかけをする首長たちが、ひとりとして彼らの子供を送り出さないのか?衛星放送で毎回パレスティナ青年男女が自らを吹き飛ばすニュースを見て、喜びと喜悦を抑えきれない指導者たちが一人として、彼らの子供を送り出さないのは、なぜなのか?」

 「心の痛み、更なる涙をもたらすものは、マフムード・アル・ザハール、イスラミ・アブ・シャナブ、アブデル・アジズ・ランティシのように、その子供達を争いに送り出すことを避ける首長たちやリーダーたちに他ならない。暴動が起こった直後、アル・ザハルは彼の子、カレッドをアメリカへ、アブ・シャナブは彼の子、ハサンをイギリスに、そしてランティシの妻は我が子ムハマッドを自爆させることを思いとどまらせ、その代わりに彼の学びを修了させるために、彼をイラクに送った。」

 

三宅弘之

LCJE海外協力レポーター

 

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ICEJ、イスラエル・ツデイ、イスラエルテレビ・ラジオニュース)


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イスラエルからのニュース
2002年9月下旬

1.自爆テロの再発

 イスラエル北方で、先月の8月4日に起きたバス自爆テロにより、9人の死者と50人以上の負傷者を出したテロ事件以来、イスラエル領内でのテロは沈静化していました。[1]しかし、9月18日、19日と二日続けてパレスティナ人テロリストによる自爆テロ事件が起こりました。9月18日水曜の午後、道路わきに不審な人物がいるとの通報を受けて現場に警官が駆けつけ尋問したところ、そのパレスティナ人は、胴に巻いていた爆弾装着ベルトを起爆させ、それによりその警官が死亡するとともに近くにいた数人も重軽傷を負いました。さらにその翌日、テルアビブに於いてバスを狙った自爆テロがあり、6人の死者と多数の負傷者を出しています。

 

2.悲しみの中の美談

 悲惨な自爆テロ事件の中に、憎しみを越えたすばらしい出来事がありました。それは、テルアビブでのバス自爆テロで、六人目の犠牲者となった、ヨナタン・ジェスナーさん19歳の腎臓が家族の了解の下、パレスティナ人少女ヤスミン・アブ・ラミラちゃん7歳に移植され、彼女の命は助けられたのです。彼女の祖父は、言っていました「テロの犠牲者となった若者の両親にどのように感謝していいか分からない。私は、双方が平和に暮らせることを願っています。」また、彼女の母親も「私は、彼の命が奪われたことを痛く悲しみます。また、私の娘を救うために臓器を提供してくれたご両親に感謝します。」と彼らの感動を言い表していました。

 

3.議長府の包囲解除

 先の二件の自爆テロ事件を受けて、イスラエル国防軍は、ラマラにあるアラファト議長府を部分的に倒壊し、包囲を続けていましたが、929日に11日間に亘るその包囲を解除しました。この議長府の包囲というイスラエルの行動は、単に外部からの批判だけではなく、イスラエル内部の両右派、左派からも批判を受けています。イスラエル側では、この包囲により、アラファト議長を孤立化させ、彼の威信と影響力を奪うという目的が背後にありましたが、結果的には、彼の求心力を強めることとなりました。

 しかし、イスラエル軍は完全撤退をしたわけではなく、距離を置いて監視体制を敷いています。それは、議長府の内部にかくまわれているテロリストたちを逮捕するためです。アラファト議長は、テロ対策に乗り出すことを確約しましたが、しかし、その約束に反し、テロリストたちを彼のもとにかくまっていたのです。解放後のインタビューでアラファト議長は一人の記者から次のように質問されました。「議長、あなたは本当にテロリストをかくまっているのですか?」この質問に対して議長は逆上し、「お前はだれに対してそんな質問をしているのだ。アラファト元帥に対してそんな質問をして良いと思っているのか。そんな質問は拒絶する。そんな質問をするような者は拒絶する。」

 

4.レバノンとの緊張の高まり

 イスラエルは、パレスティナとの問題だけではなく、今またイラクの大量破壊兵器の脅威にさらされています。そして、それだけではなく、レバノンからガリラヤ湖に流れ込むハツバニ川の権益を巡って、レバノンとの間に緊張が高まっています。ハツバニ川は、イスラエルの水の供給の10%をまかなっている大切な水源です。レバノンは、その川から水をさらに大量に汲み上げるためのパイプラインをイスラエル側との話し合いもなく一方的に建設を始めました。しかし、そのような一方的な行為は、協定に反するものであり、さらに2カ国以上にまたがって流れる水源の取り扱いについては、それぞれの国の合意に基づいてなされなければならないとの国際法にも違反するものです。レバノンは十分な水源を有しており、そのような水の汲み上げ工事は、単にイスラエルを挑発するためのものであり、必要に迫られて行われているものではありません。現在レバノンの実権を握っているのは、イスラエルに対して、テロ行為を繰り返してきたグループ、「ヒスボラ」であり、この水源を巡っても彼らはあくまでもイスラエルに対して対決の姿勢を示しています。イスラエル側では、アメリカや国連の仲介を求めると共に、レバノンに対して、その計画を防ぐために武力行使も辞さないとの警告を発しています。

三宅弘之

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、イスラエル・ツデイ、ICEJ、イスラエル・テレビ・ラジオニュース)


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[1] しかし、パレスティナの区域にあるユダヤ人居住地でのテロ被害、また、イスラエル兵士の死傷者は後を絶ちませんでした。また、500キロ以上の爆弾を積んだ車によるテロの試みなど、イスラエル領内に入る前にテロが事前に阻止されるということが、幾度もありました。また、その六週間に亘るイスラエル領内でのテロの沈静化は、一つにイスラエル国防軍が、テロ対策として、パレスティナ領内に入り、防備を固め、さらにテロ組織に対して強い対決姿勢を示していためでもあります。