2003年1月16日 混沌としている総選挙戦
2003年1月1日 IDFの家取り壊し


イスラエルからのニュース
2003年1月上旬


1.揺れ動く選挙戦

 比例代表制をとるイスラエルでは、政党に対するイメージ、あるいは政党の党首のスキャンダルなどが直接的に党の議席数獲得に影響を与えます。128日の選挙日を前に議席数の予想数が上り下りしていますが、そうした動きについての背景を追ってみます。

12月上旬の選挙の予想では、シャロン首相率いるリクード党が120議席中40議席ほどを獲得し、また、前ハイファ市長ミツナ氏率いる労働党が20議席ほどにとどまって、リクードが勝すると予想されていました。しかし、シャロン首相の選挙資金に関するスキャンダルで大きな変化が起こりました。シャロン首相は、南アフリカのビジネスマンである旧友、シリル・カーン氏から、不法に150万ドルを借り受けたということが明るみに出され、それによりリクードの議席予想数は30あまりに落ち込みました。

しかし、そうした中、シャロン首相の弁明特別記者会見が開かれ、テレビとラジオでその様子が報道されましたが、そこで珍事が起こりました。その席で、シャロン首相が、労働党が手段を選ばず、未だなんら確定されていない事件を持ち出して選挙戦に用い、さらに彼を「ゴッド・ファーザー」と呼び、彼の家族をマフィアの家族に譬えて非難したことについて、悪辣な行為であると訴えつつ、カーン氏からの借入金についての弁明を続け、その弁明が中心に及んだときに、突然、放送が中断されました。それは、中央選挙管理委員会の委員長、ミシャエル・チェチン氏が、放送の停止を命じたためです。選挙から60日以内は、そのような場での選挙宣伝が禁じられているということからそのような行動がとられたということですが、重要な首相の弁明の途中で放送が切られたということに、大衆は大きな驚きを与えられました。また、イスラエルのエリートクラスや司法関係、メディアなどは、労働党を含み左派を支持していることは周知の事実ですが、そうした放送の中断は、左派支持者によってシャロン首相が、疑惑におとしめられた犠牲者であるとの印象を与えました。そうしたことにより、リクードの議席獲得予想数が回復の兆しを見せています。

また、テルアビブでのダブル自爆テロ事件で外国人労働者を含み多くの被害者を出しましたが、テロリストグループの発言は次のようなものでした。「たとえイスラエル政権が右であろうと左であろうとそんなことはなんら関係がない。また誰がそこにいようとそんなことは問題ではない。」スキャンダルだけではなく、パレスティナ人によるテロ活動によっても選挙は大きく左右されます。

さらに、これは本来あるべきことではありませんが、海外からもイスラエルの選挙に影響を及ぼそうとする動きがあります。特にイギリスは、無条件で占領地からの軍の撤退を唱える左派のミツナ氏率いる労働党を支持しています。ですから、リクード党のネタヌヤフー外相との会見をイギリスのブレア首相は拒みましたが、ミツナ氏と会見し、イスラエルへの武器関連の輸出を停止していた処置を考え直してもよいとの発言をするなど、明らかに労働党を後方から支援する動きを見せています。また、現在イギリスでパレスティナの改革の推進を支援するための会議が開かれています。イラク問題に対して、アメリカに追従し武力行使をも辞さないとの構えを見せている一方、アラブ諸国に対し、また自国のアラブ勢力に対する懐柔政策として、この会議が開かれており、また、日程の選び方などから、この会議を通して平和的なムードをかもし出して、左派のミツナ氏(テロとの戦いのさなかでもパレスティナとの和平交渉に応じるとの立場をとる)を支援する狙いも含まれているように見られます。

 イスラエルとパレスティナ問題の解決の鍵は、以前にも触れましたが、パレスティナに対する懐柔政策ではなく、パレスティナのテロ活動に対して世界が一致して厳しく非難し、圧力をかけることです。そうすることによって、テロは沈静化されることができます。しかし、ヨーロッパ連合やイギリスは、テロが続く中で、イスラエルに対しては厳しい経済制裁を突きつけながら、パレスティナに対しては、支援の拡大をしているというのが現状で、それはテロに対してゴー・サインを出しているのと同じことです。アラファト議長が、今もテロを継続することができるのはそこに理由があります。彼は口先で、テロを非難すれば支援を受けることができるのです。

 三宅弘之

 LCJE日本支部海外協力レポーター

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、イスラエル・ツデイ、ICEJ、イスラエル テレビ・ラジオニュース)

最新号に戻る

きよきよの部屋に戻る
HOME


イスラエルからのニュース
2002年12月下旬

 

1.家の取り壊し命令の中止

 ベツレヘムにある、ひとつのアパートで二人の指名手配中のテロリストが逮捕されました。普通、イスラエル国防軍(IDF)は、そのようなテロリストの隠れ家となっている家を破壊します。この時も、二人のテロリストが逮捕された後に、そのアパートにいる人たちに退去命令が出され、ブルドーザーが数時間後に現場に到着しました。

 しかし、このアパートの家主、イッサ家族は、イスラエルとの平和共存をスローガンに活動していた家族であり、その家族が経営する学校「希望の花々」は、アメリカの支援を受けて、平和と共存を趣旨にしたカリキュラムを組み、ヒラリー・クリントンを含むアメリカの要人もその学校を訪ねたことがあります。

 IDFの退去命令を受けて、家族は直ちにアメリカの大使館に連絡をとり、仲介を願いました。ブルドーザーは、外壁の撤去にかかりましたが、高圧電線の鉄塔がぐらつき、そのため工事は一時中断されました。しかし、しばらくの中断の後、作業が再開され、まさに家が倒壊されようとしているときに、アメリカの仲介により、作業の中止命令が出され、その家は倒壊を免れました。

 しかし、そのようなIDFによる、家屋の倒壊作戦により、テロリストたちが隠れ家を見つけることが難しくなってきています。それは、彼らをかくまっていることが発覚した際に、家を破壊されることをパレスティナの人たちが恐れるからです。

2.イスラエルとパレスティナの人道的連携

 パレスティナの町、トゥルカレム在住のパレスティナ人少女、ヌラン・アル・カルミちゃん8歳が、行方不明となり、捜索が続いています。彼女は、前トゥルカレム、ファタハ指導者ラエッド・アル・カルミの親戚で、ラエッド・アル・カルミは、一連のテロ活動の責任者の一人で、昨年IDFによって殺害されました。トゥンカレム知事からヌランちゃんの行方不明報告を受けたIDFは、ヌランちゃん捜索の協力を申し出、近隣のキブツやモシャーブ住民のユダヤ人も多数捜索に参加しました。こうした状況下で、捜索の妨げとならないように、パレスティナ武装集団ファタハとハマスは、トゥンカレム知事などの要請により、一時的な休戦に応じました。

 トゥンカレムに住む、あるパレスティナ人ビジネスマンは言います。「これまでの大変な紛争にもかかわらず、いまだ、人道的な見地で無視できない部分があるということは、本当に、大きな励ましである。」「彼ら(IDFと捜索に協力しているユダヤ人)は非常な熱心さを示している」「多くの人は、IDFに対して非常な怒りを抱いているが、この人道的な行為にとても心を動かされている。」

3.イラク問題に関してのこちらの状況

 アメリカのイラク攻撃が避けられない状況になりつつある今、イスラエルでもイラクからのミサイル攻撃に対する緊張が高まってきています。それまでは、ガスマスク配給センターに来る人数は、一日5千人程度でしたが、いよいよ、戦争が具体化してきた今日、約1万5千人の人々が配給センターにつめかけ、長い列を作っています。すでに、学校や職場などにIDFから担当者が送られ、ガスマスクの使い方や、非常時の対処の仕方などについての説明がなされています。天然痘に対する予防接種を全国民対象に行うかどうかという協議がなされていましたが、最終的には、イラクが生物化学兵器を使う可能性は低いと判断して、先送りにされました。

 イスラエル国民に対してガスマスクは政府から無料で配布されていますが、最近の報告で、170万あまりの人が効力を発しないガスマスクを所持していると言われています。それは、期限の切れた古いものである場合や、サイズがその人に合っていないなどの理由によるものです。ガスマスクは大人のサイズと子供のサイズの二通りしか作られておらず、特に女性の場合、サイズが合わないというケースが多く見られます。

 非常時に備えて、どの家庭でも飲み物や食物が備えられ、家の中の一部屋を密閉ルームとして備えています。生物化学兵器が使われたとき、ガスの侵入を最小限に止めるためにビニールシートやビニールテープでその部屋は密閉されます。その部屋には、飲み物や食べ物はもちろん、ガスマスク、懐中電灯やラジオ、それにおトイレ用のバケツなども備えなければなりません。

 もうすぐ、あちらこちらでビニールシートやテープなどが売られるようになるでしょう。

 イスラエルでは、2003年は総選挙、イラク問題に対する緊張、また、「ロード・マップ」と呼ばれる新しい和平案を巡っての折衝を迫られるなど、新たな激動の年となりそうです。

三宅弘之

LCJE日本支部海外協力レポーター

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、イスラエル・ツデイ、ICEJ、イスラエル テレビ・ラジオニュース)


最新号に戻る

きよきよの部屋に戻る
HOME