2003年5月11日 パレスチナの新首相


イスラエル・レポート
5月上旬

1.パレスティナ自治政府の新首相

 アメリカ、ヨーロッパ連合、エジプト、サウジアラビアなどからの強い圧力によりアラファト議長が最終的におれるかたちとなって、ムハメッド・アバス(通称:アブ・マゼン)氏をパレスティナの首相とする新しい内閣が誕生しました。イスラエルとの和平進展のためにアメリカやヨーロッパ連合が、アラファト議長に首相を指名して、自らは象徴的な立場に退くようにと強く要求していました。これに対して、アラファト議長は、単に表面的なゼスチャーとして首相を指名し、自らはあくまでも影のボスとして君臨したいとの意向を持ち続けていました。しかし、その思いとは裏腹に、アバス氏は首相として政治運営を行なうために必要な真の権力の移行を求めており、この両者の間に力の対決があり、それは、今も続いています。

 不法な武力集団、テロ組織に対して、武力の放棄を促し、組織の解体を進めることが、和平進展のために必要な条件としてパレスティナ自治政府側に求められています。しかし、それを実行するために必要な軍事権力は、主にアラファト議長の手に握られています(七つの治安部隊の内、五つがアラファト議長の直接命令の下にある)。また、組閣に関してもアバス氏が大きな譲歩を迫られ、多くの旧体制の顔ぶれが新内閣の内に残されています。

 また、テロ組織との戦いに対して実行力を持つと思われる前ガザ地区防衛長官のモハメッド・ダーラン氏を内務大臣に任命し、テロ対策にあたらせたいとの意向をアバス氏は持っていましたが、アラファト議長の強い反発に会い、最終的にはアバス氏が内務大臣を兼ね、ダーラン氏を補佐とする形でまとまりました。しかし、ここに来てアバス氏が内務大臣としての実務をダーラン氏に移行しており、この動きに対してアラファト議長は強い反発を示し、両者の間にある確執が再び表面化しています。

 さらに、アラファト議長は、テロ活動に直接関わっている“部隊十七”を含む5つの軍事部隊を傘下に入れて、独立した組織を作ることをもくろんでいます。

 そうした状況で、新しい和平案「ロード・マップ(行程路)」がパレスティナ側に求めているテロ組織の解体と武力による闘争の放棄が進められる見込みは非常に薄いと見られます。


2.「ロード・マップ(行程路)」に対するイスラエルの反応

 アメリカを中心として、ヨーロッパ連合、ロシア、国連、が共同で推し進めようとしている新しい和平案である「ロード・マップ(行程路)」に対して、イスラエルは難しい決断をする用意があるとしながらも、パレスティナ側にイスラエル領へのパレスティナ難民の帰還権の放棄を求めています。それに対して、自らもイスラエル領に含まれるガリラヤ地域にあるツファット出身の難民であったアバス氏は、強く拒絶しています。

 イスラエルとしては、パレスティナ領を認める代わりにイスラエル領内へのパレスティナ難民の帰還権の放棄を求めていますが、パレスティナ側は、それを拒絶し、自らの領土からユダヤ人を完全に締め出すことを求めながら、イスラエル領内に膨大なパレスティナ難民を送り込もうとしているのです。

 そうした数百万と言われるパレスティナ難民をイスラエル領内に受け入れることは人口比率の激変だけではなく、元々イスラエルに対して強い憎しみを持つ彼らがイスラエル領内で新たなテロを起こすことは明らかに予測されることです。これはイスラエルの生存権を揺るがすことであり、イスラエル側としては決して受けれいることのできないものです。


3.外国人国籍者による自爆テロ

 イギリス国籍を持つ、二人のアラブ系男性による自爆テロ事件がテルアビブにあるパブで起こりました。外国国籍を持つ者による自爆テロは初めてのことで、大きな波紋を呼んでいます。自爆テロに及んだひとり、アシフ・モハメッド・ハニフ21歳は、多くの若者たちでにぎわっていたパブに入ろうとしたところ、ガードマンに進入を妨げられたため、入り口で爆弾を起爆させ、それにより3人が死亡、60人が重軽傷を負いました。もうひとりのオマル・カン・シャリフ27歳は、爆弾が起爆しなかったため、爆弾装着ベルトをはずし、逃走しました。

 アラブ人の容姿を持つ彼らが、ガザからイスラエル領内に進入したときに検問で何の疑いも抱かれずに通過できたことに検問のあり方に大きな疑問が投げかけられています。

 また、彼らがテロ行動を起こす前にパレスティナへの支援団体、国際団結運動(ISM:International Solidarity Movement)の会合に参加しており、このグループとの結びつきが疑われています。イスラエル国防軍は、ガザにおけるこうしたグループを厳しく取り締まる構えで、事務所の捜索や職員やボランティアの逮捕あるいは尋問が行なわれました。さらにガザ地区に入る外国人に対して、イスラエル国防軍の許可を事前に得ることを義務付け、万が一何かが彼の上に起こっても、イスラエル軍には何の責任もないという書類にサインをすることを求めています。

 人権団体アムネスティは、そうしたイスラエルの要求は、人権問題に関わるとして強く反発を示しており、イギリスのジャック・ストロー外相も、外国人に対する安全保障義務の放棄であると強く非難しています。

 しかし、そうしたパレスティナ支援団体が、テロリストをかくまう、あるいは自らをあえて危険にさらしてイスラエル国防軍の働きを妨げるなど、目に余る行為が目立っていました。


(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ICEJ、イスラエルテレビ・ラジオニュースなど)


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