2003年6月12日 ハマス指導者暗殺未遂
2003年6月1日 ロードマップと自爆テロ


イスラエル・レポート


1.報復テロ?

 日本でもニュースとして大きく取り上げられているかと思いますが、エルサレムの幹線道路ヤッフォ通りで路線バスを狙っての自爆テロがありました。テロリストは、またもユダヤ教の宗教家に扮装して、いつも買い物客で賑わうマハネ・イェフダ市場からバスに乗り、少しヤッフォ通りを下ったところで自爆しました。その爆発で少なくとも16人が死亡し、93人が負傷しました。この自爆テロに対して、テログループ、ハマスは、先日のイスラエル国防軍(IDF)によるハマス指導者のランティシ氏暗殺未遂に対する報復であると犯行声明を出しています。しかし、そのような大掛かりなテロは短期間の内に準備できるものではなく、ランティシ氏暗殺未遂事件とは無関係であるとの見方もされています。実際、新和平案の受け入れと推進を宣言したアカバ・サミットからこのテロが起こるまでに10件ものテロの未遂があり、幸い、いずれも事前に食い止められているという背景があります。ちなみにこの自爆テロによって狙われた14番の路線バスは、私が住んでいるタルピヨットという地区に来るバスでした。


2.ランティシ氏暗殺未遂事件

 上記の路線バスを狙っての自爆テロに先立って、イスラエル政府側は、自動車で移動中のハマス指導者のひとり、ランティシ氏を狙ってヘリコプターからミサイルを発射し暗殺を試みました。しかし、一発目のミサイルがはずれ、ランティシ氏は車から逃れ、その後、さらに数発のミサイルが発射され、一人の女性と3歳の子供、それに彼の警護が死亡すると共に、25人の人々が怪我を負いました。しかし、ランティシ氏自身は軽症で逃れました。

 これは、アカバ・サミットの後、一時は徹底抗戦を訴えていたテロ・グループ、ハマスがパレスティナの新首相アバス氏の釈明を聞き、再び停戦に向けての話し合いに応ずるとの構えを示していたときの出来事でした。この事件に対して、和平仲介役のアメリカも強く遺憾の意を表明しており、イスラエル側に強く自重を求めました。国際社会からも、どうして、このような時期に暗殺計画を遂行したのかという疑問が投げかけられています。

 この暗殺作戦が遂行されるまでの経過を振り返ってみると、先月の中旬に連続テロがエルサレムであり、さらにアカバ・サミットの後も4人の兵士がパレスティナ人テロリストの銃撃に会い殺害されるという事件が起こっていました。また、テロによる犠牲者と思われる二人のユダヤ人青年の殴打され、ずたずたに切り裂かれた遺体が発見されています。まず、このような執拗なテロ攻撃に対する応答と見ることができます。

 しかし、さらに重要な点は、パレスティナのアッバス首相が、アカバ・サミット以降、彼に対する非難が強まる中(パレスティナ人による暴動に対して、テロあるいは暴力という言葉を使ったこと、またパレスティナ難民の帰還権やパレスティナ人の囚人開放などに触れなかったことなどに対する非難)パレスティナ・テログループ、あるいは武装集団に対し、さらに態度を軟化させる一方、イスラエルとの交渉において難民の帰還権やエルサレムを首都としてのパレスティナ国家建設などについてイスラエルと一切妥協しないと、釈明を交えて断言させられる形になったところにあります。特に難民の帰還権に対して一切妥協しないという態度は、交渉の決裂につながるものであり、アッバス首相をそのような頑強な態度に押しやるテロ、武装集団の解体はイスラエルにとって重要です。

 また、アッバス首相の釈明を受けて、ハマスやイスラム聖戦などのテログループが再び、停戦協議に応じるとの構えを見せました。しかし、そのような停戦は、イスラエルにとっては好ましいことではありません。なぜなら、和平案の遂行条件の第一段階として、パレスティナ側には、テロあるいは不法武装集団の解体、また不法な武器の押収義務が上げられていますが、それを単なる言葉だけの一時的な停戦合意で済ませようとしているからです。そして、その言葉だけの停戦で、イスラエル側には一方的に無届のユダヤ人居住地の撤去やイスラエル軍の撤退、パレスティナ囚人の釈放などの実行を要求するものであるからです。そのような言葉だけの停戦は実質のないものであり、そのような土台に立って、次の段階に進むことは不可能です。

 それゆえ、イスラエルはランティシ氏の暗殺計画遂行により、テロとの断固とした対決姿勢を示すと共に、アバス首相側にテログループとの停戦協議を止め、対決を促す狙いがあったものと思われます。イスラエル側が望んでいるのは上塗りの平和ではなく、確かな安全保障を伴う平和です。


三宅弘之

(ハ・アーレツ、エルサレムポスト、マアリーブ、イスラエル テレビ・ラジオ ニュース)


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イスラエル・レポート
5月下旬


 イラク危機が去って、五月に入り、イスラエルではパレスティナとの和平問題、それにテロ事件、さらには新しい経済政策をめぐっての動きなど、めまぐるしく揺れ動く月でした。パウエル国務長官が新和平案「ロード・マップ(行程表)」の進展を促すためにイスラエルを訪れました。パウエル国務長官のイスラエル来訪に際して、イスラエル側は「ロードマップ」受け入れに対しては、慎重な構えを見せたものの、ユダヤ人殺戮に関与していない200人のパレスティナ人の囚人の釈放、ガザ、西岸地区での閉鎖の解除、また、ガザの魚場の拡大など、パレスティナ側に肯定的な態度を示しました。しかし、そうした和平に向けての動きに反対するパレスティナ勢力が、閉鎖が解除されたことをよいことに、5月中旬、再びテロを敢行しました。また、パレスティナのアバス新首相とイスラエルのシャロン首相との初会談を目前にして、二日で5件ものテロ事件が連続して起こりました。


1.二日で5件の連続テロ

 ヘブロンでユダヤ人宗教家に扮装したテロリストが、ベルトに装着した爆弾を起爆させ、一組の夫婦が犠牲となりましたが、奥さんは妊娠中でした。さらに、エルサレムの北部でバスが自爆テロに遭い7人の死者と20人の負傷者を出しました。このときも自爆テロリストはキッパー(丸い小さなお皿形のかぶりもの)を頭にかぶり、タリート(祈りのときなどに男性が使うショール)などをはおってユダヤ人の宗教家の扮装をしていました。また、アフラのショッピング・モールでも自爆テロがあり、警備員を含み3人が死亡し、50人あまりが負傷しました。イスラム原理主義組織、ジハッドが犯行声明を出しましたが、自爆テロを行なったのはパレスティナ女性で、イヤット・アル・アーリス(Iyat al-Ahris)18歳、高校三年生です。今までにも二度、女性による自爆テロがありましたが、今回は未婚女性で、しかもイスラム原理主義組織によってリクルートされたという点では、初めてのケースです。

 そのほかにも、自爆テロリストのみが死んだ自爆テロ事件、あるいは銃撃テロなども起こっています。


2.イスラエルが公式に新和平案を受け入れる。

 アメリカ主導の和平案、しかもアラファト議長をはずしての和平交渉ということで、パレスティナの反対勢力によるテロが激化する中(イスラエル側は、アラファト議長が背後にあるものと非難していますが)、イスラエルが公式に新和平案「ロード・マップ」の受け入れを表明し、25日、内閣による投票がなされ賛成12、反対7、棄権4で可決されました。しかし、同時にパレスティナ難民のイスラエル領土への帰還権を認めないとする議決案も採択されました。これにより、アメリカを中心にした本格的なイスラエルとパレスティナの和平への取り組みがなされることになります。すでにシャロン首相とアバス首相との二度にわたる会談が持たれましたが、イスラエル側がテロ組織との完全対決をパレスティナ側に求めているのに対し、アバス首相はテロ組織やパレスティナ武装集団との話し合いによる休戦でよしとする立場を取っています。テロ組織との単なる休戦協定は、彼らの組織力回復のために時間を与えるだけで、それは単に水道の蛇口を開いたり、閉めたりしているようなものであると、イスラエルはあくまでもテロ組織の解体、不法な武器の没収を敢行することをパレスティナ側に求めています。そのほかにも、徐々にイスラエル軍を撤退しつつ、防衛の責任をパレスティナ側に移行していくとのイスラエル側の案に対し、パレスティナ側は、早期のイスラエル軍完全撤退とイスラエルとパレスティナ居住区間にある閉鎖を撤去することを求めており、第一歩から双方に大きな隔たりがあります。また、アラファト議長抜きで推進しようとするアメリカ主導の和平交渉にアラファト議長はもちろん好意的ではありませんが、パレスティナでの彼のNo.1としての影響力はいまだに強大で、どれほど、アバス首相が実権を握って和平案の交渉に当たれるか、またどれほどパレスティナ側の履行責任を推進できるかが疑問視されています。


3.ストライキ、ストライキ、ストライキ

 大幅な予算削減、国営企業の民営化、段階的な利率の引き下げなどを盛り込んで、大蔵大臣ネタヌヤフー氏が中心に推進しようとする経済改革にヒスタドルート(75%以上の労働者が加盟するイスラエル最大の労働組合)が中心に反対して、全面ストライキが4月30日から5月18日まで断続的に行なわれました。そのため、空港、港、役場、免許センター、学校、ごみの収集など多くの公共サービスが停止し、多くの支障を来たし、イスラエル経済にも大きな損失をもたらしました。労働組合の上層部の意思、取り決めによって、簡単に全面ストライキが引き起こされる仕組みに対して、ネタヌヤフー大蔵大臣は、国会の審議を通して、そうした労働組合の権限を取り上げるとの脅しをかけました。その後、双方が歩み寄りを見せて、ようやくストライキの解除となりましたが、しかし、ヒスタドルートが独自に管理する厚生年金を政府の管理下におくとする案に対して、ヒスタドルートはあくまでも対決の姿勢を示しています。また、電話会社、電気、航空などの国営企業の民営化に対しても多くの反対があり、まだまだ、経済改革は難航するものと見られます。


三宅弘之

LCJE海外協力レポーター

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ICEJ、イスラエル テレビ・ラジオ ニュースなど)


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