2003年7月17日 ウーマン・パワー
2003年7月2日 ハマスの停戦合意?


イスラエル・レポート
7月下旬

1.ウーマン・パワー

 イスラエルでは、ヴィッキー・クナフォさんを中心に女性の力が結集している。ヴィッキーさんは3人の子を持つ母子家庭の母親である。最近の経済改革での大幅な予算の削減は、公務員の給与や教育費、さらに福祉の面にも及び、弱者生活がいっそう苦しいものとなっている。そうした中、ヴィッキーさんは、そうした福祉予算の削減に抗議するため南の荒野の町、ミツペ・ラモンから約200kmの道を徒歩でエルサレムに向かって歩いた。大蔵省の建物の向かいにテントを構え、今や彼女は時の人となっている。

 彼女のことがマスコミで大きく取り上げられ反響を呼び、彼女のテントには連日、政治家やさまざまな団体の人々が訪れる。また、北から南から母子家庭の母たちが、ヴィッキーさんのテントへと日に日にその数を増している。ヴィッキーさんの場合、彼女の地域にある幼稚園で給食の仕事をして月に32,000円程度を得、そして、福祉からの補助金が32,000円余り減額され、仕事以外に彼女が得られる援助金は50,000円程度となり、それで3人の子供と共に4人暮らしという状況。

 大蔵大臣のネタヌヤフー氏も直接的な対応を迫られ、そうした、母子家庭の母たちのために通学児童たちの利用するバスに同乗して、子供たちの監視(子供たちがバスにいたずらをして毎年大変な修理費が必要)、そのほかにも地域で新しい仕事を作って斡旋する、あるいは、母子家庭の子供たちを学校の放課後も預かることができるシステムを作るなど、彼女たちが働くことのできる環境作りを中心に対応しようとしている。それに対して、ヴィッキーさんたちは、あくまでも福祉予算の削減の凍結と見直しを求めており、両者は平行線をたどっている。「私は今までに泣いたことがない。私は強い女だ。しかし、私だけではなく、この福祉削減により苦しむ人たちのことを聞き、私は泣いた。」「私は自分のために戦っているのではない。私と同じように母子家庭にある150,000人の代表として戦っているのである。勝利を得るまでは家には帰らない。」これは、ヴィッキーさんの言葉である。


2.パレスティナ自治政府の内紛

 アラファト議長のアッバス首相に対する「裏切り者」発言により、アッバス氏は、パレスティナ自治政府の中央組織であるファタハの中央委員会から離脱を申し出、首相の地位をも辞退する用意があるとの声明を出した。アラファト議長は権威の座を死守するためにアッバス氏あるいは、内務大臣の代行として警備保安にあたるダーラン氏の権力削減に奔走している。和平推進に対し、アラファト議長が大きな障害となっているのが現状である。

 アラファト議長のラマラでの幽閉解除を今後のイスラエルとの交渉で強調するということで両者は妥協したものの両者間の権力闘争は今後も続く見込みである。


3.シャロン首相のイギリス訪問

 イスラエルのシャロン首相は今回のイギリス訪問で、イギリスが和平推進の妨げとなるアラファト議長との対話を停止するようにとジャック・ストロー外相に申し出たが、その申し出は受け入れられなかった。その代わりにストロー外相が防御壁の建設の中止を求めたのに対し、シャロン首相は、「それは、政治のための壁ではなく、安全のための壁であり、中止することはできない。」と応酬。和やかな雰囲気の中にも両者の間に大きな対立が浮き彫りにされた。

 また、イギリスのメディアの大手BBCの極端な反イスラエル的な記事、あるいは番組の取り扱いに対し、イスラエル政府は業を煮やし、今回のシャロン首相のイギリス訪問での記者会見にBBCを招待しない意向を固め、イスラエルの政府レベルでの制裁を加える方針を打ち出している。ジェニンでのイスラエル軍によるパレスティナ人虐殺問題が取りざたされていたときにもBBCはシャロン首相を幼児虐殺をしたキリスト時代のヘロデ大王と比較しての番組を流し、今回のイラク問題に際しては、イスラエルの大量破壊兵器保持の可能性を取り上げ批判するなど、目に余る反イスラエルの動きがあった。


三宅弘之
LCJE海外協力レポーター

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ICEJ、イスラエル・トゥデイ、イスラエル テレビ・ラジオ ニュースなど)


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イスラエル・レポート
6月下旬


休戦合意は和平の進展か?

 ハマス、イスラム聖戦、ファタハなどのパレスティナ武装・テロ集団は、三ヶ月間の休戦に合意しました。それは、ひとつに、アメリカ、エジプト、特にヨーロッパ連合からの圧力が強く加わったためです。ヨーロッパ連合は、かねてよりイスラエルとアメリカからハマスを完全にテロ組織として認めるように要求を受けていましたが、今まで、単に武装集団に対してはテロ組織と認定していましたが、ハマスの政治部門は別に扱っていました。

 しかし、今回ハマスが、もしも停戦に合意しないならばヨーロッパ連合もハマスの政治部門をもテロ組織と認定するとの圧力がかかり、そうなればヨーロッパでのハマス向けの資金が凍結されるなど大打撃をこうむることもあり、今回の合意に応じたものと見られます。

 また、イスラエル側の徹底したテロ対策と、それを支持する構えを見せるアメリカ政府に対して、危機感を募らせていたこともありました。

 しかし、大きな疑問は、果たしてその休戦は和平に向けてどのような意味を持っているのであろうかということです。アラブ語でその休戦という言葉は「フドゥナ(hudna)」という言葉で表現されます。それは、過去の歴史に基づいて考えるならば、その意味合いが現されてきます。イスラム教の創始者、モハメッドがメッカを攻撃したときに攻めあぐね、不利に陥ったときに敵であるクライシュ部族と十年間の休戦協定を結びました。しかし、二年後、力を蓄えたモハメッドは、休戦協定を破りメッカを急襲し、それを落しました。  

 コーランの教えではモハメッドの例に倣い、そうした意味での敵との停戦は許されています。実際、アラファト議長は、イスラエルとのオスロ合意に同意したのは、そうした意味での停戦(フドゥナ)であると明言しています。それはあくまでも力を蓄え、敵を倒す次の機会を狙うものであるということです。

 また、ハマスの宣言文を読むとき、その休戦が和平の方向に向かうものであるという考えに疑問を投げかけざるを得ません。以下にハマスの宣言文の要点を挙げてみます(宣言文はインターネット、Christian Action For Israelより)。


〈ハマスの宣言文の抜粋〉

第11条 パレスティナの地はアラーから与えられたもので、一部たりとも妥協することは許されない。たとえ王であろうと首相であろうとそうした権限はない。

第13条 和平協議などは時間の無駄であり、道はただひとつ聖戦のみである。

第27条 PLOは世俗的国家のアイデアを受け入れた。そのような世俗的なアイデアを受け入れることはできない。もしも、PLOがイスラムの教えをガイド・ラインとするならば、我々は、その戦士となる。そうなることを祈る。PLOとの関係は父と子の関係のようである。

第31条 イスラムの影の下に、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教が平和内に共存しうる。(クリスチャンやユダヤ教徒は、下級民としての立場、すなわちイスラム教徒に隷属する立場を受け入れるならば生きることを許されるということで、しかもそれは最後の審判までです。)

 第11条の「パレスティナの地」とはイスラエル全土を指すものであり、彼らは、その全土をイスラムの支配とするまでは、決して戦いを放棄することはないと明言しています。そして、それがアッラーの命令に基づくものであるとしている点に注意しなければなりません。それは、すなわち一切の妥協を許さないということを意味しているのです。

 ハマスやイスラム聖戦などは、政治理念に基づいて行動しているのではなく、宗教に基づいて行動しているのであり、妥協という言葉は彼らの辞書にはないのです。

 ですから、今回の休戦合意は、単に組織を再生するための時間稼ぎにすぎないということになります。そして、彼らは休戦を受け入れる条件として、イスラエル側にパレスティナ領域からの軍の即時完全撤退、すべてのパレスティナの囚人の釈放、また閉鎖の完全撤廃を求めており、もしも、そのことが速やかになされないようであれば、テロを再開し、その責任はイスラエル側に帰するとしています。その条件に基づくならば、彼らにはいつでもテロを再開する理由があることになります。なぜならば、イスラエル軍の撤退は、パレスティナ側の治安維持力とテロ組織に対する取り組み方によって、左右されるものであり、また、銃撃テロなどが停戦合意発表後も起こっているという状況下で、そうしたテロリストたちの侵入を防ぐために閉鎖という事態が避けられないということも考えられます。さらには、イスラエル側は、ユダヤ人の血にまみれた者に対して釈放は認めないという姿勢をみせており、これも彼らにテロ再開の理由を与えるものとなるのです。

 ハマスなどのテロ組織は和平を望んでおらず、そのような組織の解体なくして二つの国が平和裏に隣国として共存するというようなことはありえないということが以上のことから結論付けられるかと思われます。


三宅弘之

LCJE海外協力レポーター

(情報:ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ベテル・タガル、Christian Action For Israelほか)


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