イスラエル・レポート
9月

1.休戦協定の終わり

 8月19日のエルサレムで起こったバス自爆テロ事件により、イスラエルとパレスチナ間に結ばれていた休戦協定が事実上終わりを告げることになった。イスラエル側は、テロ組織の指導者たちの暗殺作戦に出、テロとの完全対決の姿勢を示した。最近でもイスラエル空軍のミサイル攻撃により、テロ組織ハマスの精神的指導者、アフメッド・ヤシンの暗殺作戦が敢行された。それは、未遂に終わったものの、今後のテロの激化が予想される。

 イスラム原理主義者たちは、イスラエル国家の存在を認めない立場を固持しており、3ヶ月あるいは、それよりも長い休戦協定が結ばれたとしても、遅かれ早かれ、いつかそれは破られ、流血の戦いになっていたであろう。彼らは政治の理念に基づいて行動しているのではなく、彼らの宗教の理念に基づいて行動しているのであり、本質的にいかなる妥協もそこに入り込む余地はない。だから、休戦協定が結ばれた時点で、その終わりは見えていたのである。


2.エルサレムバス自爆テロでの奇跡

 22人の死者と多数の負傷者を出した、エルサレムでのバス自爆テロ事件でひとつの特徴的なことは、被害者の多くが宗教家の人たちであったということである。西壁での祈りを終え、夜の9時ごろ家路に向かうバスが、自爆テロリストにより、大音響とともに吹き飛ばされたのである。

 いつもであると、現場に集まった群衆は、「アラブに死を」と叫ぶのであるが、この時その場に集まった人々は、一切そのような叫びをしなかった。かえって、一人のラビは、自分たちのうちに問題があるのだとして、悔い改めを訴えていたことは、とても印象的であった。

 また、そのような惨事の中にあってもひとつの奇跡が見られた。それは、自爆テロリストが自爆した近辺に重なり合っていた死体の中にひとりの赤ん坊が無傷で発見されたのである。救助隊員の誰一人として、そのような無残な死体が重なり合っているところに生存者がいるとは思いもよらないことであったが、突然、弱い赤ん坊の泣き声が死体の下から聞こえてきて、ひとりの隊員が取り上げてみると、なんとまったくの無傷で発見されたのである。


3.ハマス幹部姿を隠す

 イスラエルのテロ組織指導者の暗殺計画が遂行されている中、ハマスなどテロ組織幹部は、標的となることを恐れ、姿を隠している。ひとりのハマス幹部、アフメッド・シャティビがイスラエルの暗殺作戦により、彼の側近とともに殺害されたが、その際に執り行われた葬儀にハマスの幹部たちは、姿を現さなかった。

 ハマスの司令部からは、幹部たちが極力外出を避けることと、携帯電話の使用を控えること、さらには、必要であれば女装をするなどして、身の安全を図るようにとの指示が出されている。


4.アバス政権の終わり

 アラファト議長とアバス首相との間の確執が激化していたが、今回、アバス首相が辞表を提出し、アラファト議長がそれを受理したことによって、アバス政権の終わりが告げられることになった。アバス氏は、アメリカとイスラエルの強い支持を受けて、パレスチナの新首相となったが、僅か4ヶ月の短命政権に終わった。その主な原因は、アラファト議長の政治的妨害や、必要な権威の移譲が行われなかったためである。

 アバス首相の退陣により、新和平案、行程表(ロードマップ)が、実質的に暗礁に乗り上げてしまった。イスラエル側は、アラファト議長、および彼の指令の下に動く者との和平交渉継続を拒絶している。そういう意味で、アラファト議長が権力の座に座り続ける以上、和平交渉の進展はありえないということになる。


5.モーセは犯罪者か英雄か?

 あるエジプトの法律家たちは、モーセの時代にユダヤ人がエジプトを脱出する際に金銀宝石を奪ったとして、裁判に訴える考えを明らかにした。それに対して、イスラエル側は、当時、エジプト人たちがユダヤ人たちを奴隷として使役したとして、逆に訴える考えを示した。

 これは最近ニュースになった、うそのような、本当の話である。


三宅弘之
LCJE海外協力レポーター
(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、ICEJ、イスラエル・トゥデイ、イスラエルラジオ・テレビニュース)


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