イスラエル・レポート
2004年2月



                        

1.首相暗殺者の結婚申請

イガル・アミール

 1955年にイツハク・ラビン首相を暗殺したイガル・アミールが結婚の許可を願い出ていることがニュースで大きく取り上げられました。その相手とは、前ソ連邦からの新移民で、弁護士であり、4人の子供の母であるラリサ・トゥリンボブラーさんです。二人はロシアで以前に知り合っており、一年前から

ラリサ・
トゥリンボブラー

手紙や電話あるいは刑務所への訪問を通して、関係を深め、数ヶ月前に彼女は夫と離婚し、アミールとの結婚に備えました。前代未聞のニュースに故ラビン首相の娘ダリア・ラビンは、ショックのために病院に運ばれるという一幕もありました。故ラビン首相が属していた労働党をはじめ左派の政治家たちの反応は厳しく、メレツ党のヨシ・サリッド氏は「イガル・アミールの結婚式ではなく、彼の葬式に招かれる方がどんなにか幸いだろう。あの人殺しと彼の妻、その子供もたちに呪いあれ」と激白しました。

 アミールは独房に入れられており、カメラで24時間監視されています。もしも、結婚した場合、そのシステムを少し変更する必要があるのではないか、少しでもプライベートな時間を与える必要があるのではないかと検討されています。


2.スウェーデンの展示会


「白雪姫と狂気の真理」、これはスウェーデン古代歴史博物館の展示会で出展されていたひとつの展示物の表題です。血の海の中にゆったりと漂う小さな船にパレスチナ人の女性テロリスト、ヤラダットの写真を白雪姫に見立てて取り付けてあるものです。彼女は昨年の10月にハイファのレストラン「マキシム」で自爆テロを行い、ユダヤ人とアラブ人双方合わせて21人の死者と50人以上の負傷者を出すという惨劇の張本人です。死者のうち5人が子供でその内の一人は僅かに2ヶ月の赤ん坊でした。この展示物と共に白雪姫の物語と並行しながら彼女の物語が綴られたパネルが置かれています。その書き方を見ると、彼女の行為は報復(テロリストとして指名手配中であった従兄弟と彼女の兄弟)という名の下に美化され、正当化されているのです。

血の池に浮く自爆テロリスト、
ヤラダットの舟


 スウェーデンのイスラエル大使、ツビ・マーゼル氏が、この展示会に招待され、この展示物を見たときに激怒し、この展示物を照らしていたスポットライトのプラグを抜いて、うち一つの照明器具を血の色の池に落としました。その後、博物館の館長は、マーゼル大使を表に連れ出し、外交官としてあるまじき行為であると非難しました。また、スウェーデンの外務省は、その行為に対する説明を求めました。

 マーゼル氏の行為は、驚きを与えましたが、しかし、それ以上に驚かされる点があります。それは、2月下旬に予定されている、「大量虐殺防止」を謳った国際大会のスポンサーであるストックホルム国際フォーラムが、この展示会を主催しているということです。一方で大量虐殺防止を唱えておきながら、もう一方で、そうしたテロ行為を助長するようなことを容認しているというのは、全くの驚きです。

 芸術による表現の自由を盾に作者であるフェイラー夫妻は、その芸術の正当性を訴えています。しかし、愛する家族を失ったテロの被害者の遺族、あるいはその爆発で身障者となった人々の心の痛みを覚えるときに、芸術の名の下で、そのような人々の心を踏みにじる行為が果たして許されて良いものでしょうか。


3.ハーグ裁判

 パレスチナ自治政府は国連総会の場でイスラエルが建設中の防護フェンスに対する法的な適正を検討するために国際司法裁判所に持ち込むことを願い、それが決議されました。その後、ハーグ国際司法裁判所は僅か11日後に意見の提出を国連に属するす国々に求め、提出期限を1月30日とし、さらに2月23日、意見の提出期限から一月もしないうちに裁判を開くという異例の速さで日程が組まれています。

 その対応策に関してイスラエルでは意見が二分していました。イギリスの国際法の専門家であり、国際裁判所においても経験豊かなダニエル・ベツレヘム氏は、イスラエルの相談役として、訴訟手続きに対する異議申し立ての書類を送るように勧告しました。それに対し、国防省の弁護士たちは、自己防衛としてのフェンスの正当性を信じるならば、それを国際舞台で訴えるべきであるという意見が出されました。

最終的にイスラエルは30日の期限ぎりぎりに供述書を提出し、その中でハーグ国際裁判所にはその件に関して裁判権がないことと、フェンスはあくまでもイスラエルの内政問題であること、さらにフェンスは市民の命を守るためには欠かせないものであることを訴えました。また、その件に関してハーグ国際裁判所には司法権がないと主張するイスラエルに、米国、オランダ、カナダ、オーストラリア、セネガル、カメルーン、ロシア、イギリス、ドイツ、南アフリカなども同調しています。そして、最後の瞬間に欧州連合もその意見に同調する意を表しました。それは、司法の場が政治に利用されることを懸念してのことです。

 このように多くの反対があるにもかかわらず、ハーグの国際裁判は予定通り、2月23日に開かれる予定です。


4.沈痛な一日

  1月29日はイスラエル人にとって非常に複雑な思いのする日となりました。

殺された3人の兵士

 2000年10月7日、テロ組織ヒスボラの手によって3人のイスラエル兵士、アディ・アヴィタン、ベニヤミン・アブラハム、そしてオマル・サヴァイドが誘拐されるという事件が起こりました。又、それに追い討ちをかけるように同月の16日にイスラエルビジネスマンのエルハナン・ターネンバウムがヒスボラの手に落ちたことをその指導者ナスララによって公表されました。

 過去に、この3人の兵士のポスターがあちこちで貼られ、彼らの行くへを探すために支援金を集める人々の姿をよく見かけました。又、イスラエル政府は世界各国に3人の兵士の解放に向けてヒスボラに圧力をかけるように願ってきました。

 今回、ドイツの仲介により、イスラエルとヒスボラの間に捕虜と囚人の交換の交渉が成立しました。しかし、ヒスボラの指導者、ナスララはあくまでも3人の兵士の生死を告げることをせず、そのときになったら分かると心理的な揺さぶりをかけ続けました。3人の兵士の家族は、生きて帰ってくることに僅かな望みをおきながら、絶望的な思いが交錯するという複雑な心境でその時を待ちました。その一人の兵士の父は、ナスララの言葉を耳にして、吐き捨てるように彼の息子が生きてかえってくるなんて信じられない。そんなことはありえない、と涙をにじませながら怒りに身を震わせていました。

ターネンバウム氏

 129日、その日がやってきました。400人あまりのパレスチナ人囚人、それにレバノン人を中心にドイツ人とイギリス人各一名を含む35名あまりがナスララの要求に従い解放され、さらに59体の遺体が引き渡されました。それに引き換えてイスラエル側が受け取ったのは、3名の兵士の遺体とターネンバウム氏ひとりでした。

 しかもそれに先立って、エルサレムで再び自爆テロがあり、11名の死者と多くの負傷者が出るという惨事が起こったのです。そのバスに乗り合わせていた息子からその無事を電話で耳にした父は言っていました、「テロリストたちを釈放すれば、このようなテロが増えるだけだ」。

 イスラエル側にとっては、全く割りの会わない交換であり、しかも釈放されたパレスチナ人たちは、「アラーは偉大だ 火と血をもってエルサレムをあがなう。次には女も含めてすべての終身刑の終身たちは釈放されるであろ 俺たちはアラーの意思を実行する イスラエルこそが火をつけている張本人だ」と叫んでいるのです。

 イスラエルのベングリオン国際空港にある軍の基地で、3人の誘拐され殺害された兵士たちの追悼式が行われ、その席上でアリエル・シャロン首相は、更なる誘拐の試みに対して、次回には厳しい報復を持って応じると警告を発していました。



三宅弘之

LCJE海外協力レポーター

(ハ・アーレツ、エルサレム・ポスト、イディオート・アハロノート、イスラエル・トゥデイ、ICEJ、イスラエル外務省インターネット・サイト、イスラエル テレビ・ラジオ ニュース、その他)


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