イスラエル・レポート
2004年3月





ハーグ国際裁判

 223日の木曜日に予定通りにイスラエルの防護フェンスの合法性を巡ってハーグでの国際法廷が3日間の予定で開かれました。その建物「平和宮殿」の前では、パレスチナ側にあるいはイスラエル側に立ったデモンストレーションが繰り広げられました。そこで特に目を引いたのが、バスの残骸と935人のテロで犠牲となった人々の写真を掲げながらの行進でした。そのバスは、129日にベツレヘムから来たパレスチナ警官の自爆テロにより鉄の残骸となったものです。

 テロ犠牲者の団体は、法廷に参加することを申請しましたが、国を代表していないという理由で認められませんでした。イスラエルでのテロの現実ということが、裁定を下す際に重要なひとつの要素であるべきですが取り上げられませんでした。

 
参加したのは、国家ではないパレスチナを中心に14か国のモスレムの国々とアラブ連合のみとなり、米国、欧州連合、ロシア、日本などの大国はいずれもその議題が法廷で取り上げられることについて同意せず不参加となりました。

 法廷での論点は、フェンスが建てられることの合法性よりも、その建てられる境界線に重きが置かれました。それは、イスラエルで相次ぐ自爆テロや銃撃テロの現実から、防護フェンスの必要性について論議しても勝ち目がないことから、その建てられた境界線が西岸地区に大きく入り込んでいて、1967年以前のグリーン・ラインに沿って建てられていないところに焦点が置かれました。そうすることによって防護フェンスの違法性を確実に訴えることができるからです。

 しかし、西岸地区やガザ地区が正式にパレスチナの領土として認められたことはありません。西岸地区はかつてヨルダンの占領地であり、ガザ地区はエジプトの占領地でした。そして、1967年の六日戦争でイスラエルがアラブ連合軍を打ち破り、シリアが占領していたゴラン高原それに西岸地区、ガザ地区などをイスラエルの管理下に置きました。そして、この領土の帰属性についてはまだ決定されていないままです。

 しかし、そうした西岸地区、ガザ地区などの未確定の地域が、まるでパレスチナ人の領土であるかのように扱われること自体、合法性がないと言えるでしょう。

 領土確定がなされていない状況下で防護フェンスの建てられる道筋について論議したところでまったく土台のない話となってしまいます。

 領土確定がなされていない今の段階で防護フェンスをグリーン・ラインに沿って建設したとするなら何十万というユダヤ人が孤立してフェンスの外側に残され、今まで以上に命の危険に去らされることになります。

 パレスチナ側には、イスラエルにとって本当の意味での交渉相手がおらず、かといってテロの危険に絶えずさらされている今の状況を継続することもできないということでシャロン首相が近ごろ一方的な分離政策を提唱しました。防衛上重要な拠点となる地域と主な植民地を除いて、植民地の撤退を敢行し、イスラエルとパレスチナを独自に分離していくという政策です。これは、あくまでもテロを武器として、話し合いによる交渉を拒むパレスチナ側に対して最終的に下された裁断であると言えます。

 
222日にエルサレムで14番のバスが自爆テロによって爆破されたときに、目撃者の一人が記者のインタビューに答えて次のように言っていました、「世界は、パレスチナ人のクオリティー・ライフについて語るけれども、クオリティ・ライフよりもライフそのもののほうが大切だ。生活の向上はいつでも図ることができるが、一度失われた命は戻ることがないのだから」

 今のまま何の方策も施すことをしないなら、テロによる死者の数は、1000人を超え、さらに数を増し加えることになります。

 防護フェンスは、そういう意味でイスラエル側としては苦渋の思いをもって、最後の方策としてなされているものです。

 パレスチナ自治政府は、もともとパレスチナ住民の福祉を真剣に求めてはいません。指導者の多くは、自らの腹を肥やすことに奔走していることは、周知の事実です。ですから、この防護フェンスの建設によって、全パレスチナ人口の1%に当たる人々が、受けるであろう不便に対して、彼らが本当の意味で心にかけているとは思えません。

 むしろ、パレスチナ側が国家として生存していく土台ができていないがゆえに今のような状況を継続することを望んでいるように思われます。それは、現在のパレスチナ側のイスラエル依存の状況から見ても分かります。テロのゆえにイスラエルが境界線を一時的に閉鎖してしまうだけで、パレスチナ住民は大変な苦境に陥ってしまいます。そして、そのことでイスラエルは世界から大きな非難を受けますが、そのような現状はとりもなおさず、パレスチナ側はイスラエルなしでは、今のところ独自に存続することができないということを示しています。

 イスラエルが与えている、そうした意味での援助を周辺のアラブ諸国は、与えようとしません。今回の防護フェンスを巡って、ヨルダンが一番心配していることは、パレスチナのその後の経済破綻と失業率の上昇により、ヨルダンに難民がなだれ込んでくるのではないかということです。

 また、パレスチナ側として、彼らにとってもっとも効果的と思われるテロという武器を取り上げられることは、彼らの戦略上非常に都合の悪いものとなってしまいます。

 こうしたところに彼らの本当の反対理由が隠されているのです。

三宅弘之
LCJE海外協力レポーター


TOP
きよきよの部屋に戻る
HOME