イスラエル・レポート

 20052月第4

1.スーパー・サンデー

 クネセット(イスラエル国会)では、220日の日曜日をスーパー・サンデーと称した。それは、独自撤退案の是非と防護フェンスの修正ルートの承認を巡る閣僚会議が開かれたためである。撤退案に対する投票の結果は175の絶対多数で可決された。

 パレスチナ自治政府の議長交代、シャルムエルシェイク会議での停戦宣言、さらにエジプトとヨルダンとの関係改善に向けての動きなどを通して、一時は反対派に回っていたリブナット教育相やシャローム外相も賛成に投じることとなった。

 撤退の時期を720と定め、それ以降にその地域にユダヤ人がいることを不法とする撤退命令にシャロン首相が署名を行った。

 また、その後にユダヤ・サマリヤ地区における防護フェンスのルートに関する承認を求める投票においても201、棄権1のほぼ満場一致で可決された。先の防護フェンスのルートはパレスチナ人の人権を侵害するものとして最高裁からルートの見直し命令が出されていた。その最高裁の決定に従ってルートが再考され、今回の閣議での承認となった。この新しいルートは、大きくグリーン・ライン(1967年前の境界)沿いに修正されたが、二つの大きな地域、マアレ・アドミームとグシュ・エチオンがイスラエル側に組み込まれている。


2.ヨルダンの新大使着任

  2000年の11月以来、エジプトとヨルダンの大使が召還されていたが、シャルムエルシェイクでの停戦合意を踏まえて、両国は大使を新たに赴任させることを承認していた。そして、222日にマアルーフ・アルバヒート(Marouf al-Bakhit)氏がヨルダンの新しい大使として着任。

 氏は、イスラエルとヨルダンの和平交渉において大きく関わった人物であり、2002年からトルコで大使の任にあった。

 また、エジプトも近い将来大使をイスラエルに送ることが見込まれているが、未だ大使の指名がなされていない。


3.ベドウィンの抗争

 ハイファの郊外に住む、アブ・カミールとサワヤドの二つのベドウィン家族の間で放牧地の所有権を巡って長年争いがあった。そして、その争いが銃撃による抗争事件にまで発展。アブ・カミール家族の住む掘っ立て小屋の前に車が止まり、ライフルを持った男が車から出て、小屋に向けて銃を乱射した。この銃撃でナワル・アブ・カミールさん(28)が殺害され、他に4人が負傷した。イスラエルの軍と警察は、直ちに道を封鎖し、ヘリコプターを動員して、捜索に当たり、8人の容疑者を逮捕した。

 普通、ベドウィンは血には血を持って報いる報復のしきたりがある。だから、更なる流血の事態になることが危ぶまれるところだ。


三宅弘之

LCJE海外協力レポーター


イスラエル・レポート

2月第3

1.続くパレスチナ側の攻撃

 シャルム・エル・シェイクで停戦合意がなされ、平和ムードが流れたのも束の間、早速その翌日にハマスとイスラム聖戦によって、50発にも及ぶロケットと臼砲がユダヤ人入植地に向けて撃ち放たれた。故アラファト前議長とアッバス議長との違いは、その後の行動に表れた。アラファト前議長は、こういう場合、単に言葉でそうした行為を非難するだけで、なんら具体的な行動を起こそうとはしなかった。しかし、アッバス議長は、すぐに行動を起こし、合意に反する行為を行ったハマスやイスラム聖戦に攻撃停止に向けて圧力をかけた。ハマスやイスラム聖戦は、アッバス議長の説得に応じ、一様停戦合意に基本的に従う旨を表明した。

 しかし、それですべてのパレスチナ人の攻撃が収まったわけではない。一人のパレスチナ人が、イスラエル兵士を刃物で刺そうとし、撃ち殺されるという事件が起こった。また、ガザ地区の南にあるイスラエル駐屯地に臼砲が撃ち込まれるという事件も起きている。

 アッバス議長の対応は、根本的な解決に向けてのものではなく、あくまでも表面を繕うものでしかないために、まだまだ、多くの問題が噴出してきそうだ。


2.ブラック・メール

 ガザと一部ユダヤ・サマリヤ地区からの撤退が本格化するなかで、入植者たちのデモや反対行動が激化している。そして、それは抗議行動に止まらず、脅迫状をシャロン首相や撤退案支持者に携帯電話やファックス、Eメールで送りつけるまでに発展。さらに、暴力的な事件を起こすまでに至っている。最近でも、シャルム・エル・シェイクでの停戦合意がなされた翌日に50発にも及ぶロケットや臼砲がユダヤ人入植地に向けて撃ち込まれ、それに抗議する形で7人の入植者たちが、ガザの入植地のグシュカティーフ・ジャンクションを封鎖しようとし、通過する車に石を投げたり、パレスチナ人を車から引きづり出して挑発するなどの行為に出た。そして、その7人はイスラエル警官によって逮捕されるという事件が起きた。

 また、蔵相のベニヤミン・ネタヌヤフーが友人の息子の結婚式に招かれたときに、そこで物を投げつけられたり、罵声を浴びせられたりし、また待機中の車のタイヤに穴をあけられるなどの被害をこうむった。

 こうした入植者や撤退反対派のエスカレートが大きな社会問題となっている。


3.ドルーズとクリスチャンコミュニティーの衝突

 ガリラヤ地方のムグハル村に住むドルーズとクリスチャンコミュニティーが紛争状態に陥った。その紛争のきっかけとなったのは、クリスチャンが裸の女性の写真にドルーズの女性の顔を合成して、インターネット上に載せるという噂が流布したためである。

 ドルーズは、イスラム教の流れを汲むものであるが、他のイスラムからは異端視され、迫害を受けてきた。彼らは、自分たちの属する国に対して命を賭けて忠誠を守ることを信条としている。それゆえに、イスラエルの軍役に服し、忠実にその任務を果たしている。さらに、ドルーズは自分たちの女性が辱めを受けるようなことがあれば、命を賭けても戦うということを志としているため、今回のような大きな紛争にまで発展してしまった。

 この紛争でクリスチャンが所有する車40台以上、また20軒以上の家と25軒以上の店が焼かれたり、損傷を蒙ったりした。


三宅弘之


LCJE海外協力レポーター

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イスラエル・レポート

20052月第1

1.自爆テロは犯罪行為?

 ブリュッセル対テロ政策欧州連合会議で、欧州司法・安保長官のフランコ・フラティーニが自爆テロに関して次のような発言を行った。『テロは、普遍な基本的人権に対する犯罪行為である。我々は、この犯罪に対して法の枠内において法によって戦うべきであると信じる…私見では、自爆テロは人道に対する犯罪であると考えることが可能だ』

 米国に本部を置くシモン・ヴィーゼンタール・センター(国際ユダヤ人人権組織)が中心になって、自爆テロに対する国際宣言を取りまとめるよう努力している。欧州会議での先の発言もそうした働きかけによって実現したものである。

 フランティーニ氏の発言を聞いて、どのように感じられるだろうか。「自爆テロが犯罪行為である」と国際法によって定義することに欧州が躊躇しているという事実に驚きを覚えるのではないだろうか。テロに対する法制が整っていないために、イスラエルだけではなく、イラクやトルコ、インドネシア、それにアメリカでの航空機を使っての自爆テロについても法的に訴えるすべがないというのが現状だ。自爆テロを賞賛し、援助している政治家や宗教家たちが野放しになっている。

 血気盛んな若者たちをたぶらかして、残虐な死に、また残虐な殺人に送り込む行為は、最も忌むべき犯罪行為である。その一度の自爆テロ事件で、どれほどの人々が殺され、愛するものを失う悲しみを負い、心身にハンディーキャップを負って生活することを強いられていることだろうか。そして、いたいけのない小さな子供までもが巻き込まれるのである。

 欧州は、今までも極端な親アラブ政策を取り続けている。イスラエルに対して活動を行っているいくつものテロ組織をテロ組織として認めようとはしない。そして、パレスチナ人による自爆テロ行為をイスラエルに対する正当な武装闘争のひとつとして黙認している。

 欧州が、「自爆テロを犯罪行為として定義する」こと、すなわち悪を悪と定義することに躊躇している背景にこのようなことがあるのだ。

 そうした欧州の態度が、国際テロの拡がりを許容することにつながっていると言えるだろう。テロ撲滅は、世界が声をそろえて一丸となって戦わない限り、成し得るものではない。


2.未然に防がれたテロ

 イスラエルに関するニュースでテロについての言及がないと、何も起こっていないかのように思ってしまうが、実は多くのテロ事件が事前に食い止められているだけである。いくつかの例を挙げてみよう。西岸地区のナブルスの検問所で、爆弾装着ベルトと拳銃をバッグに入れて持っている16歳の少年が拘束された。また、別のケースでは、パレスチナのタクシーが検問所にやって来て、道の真ん中で止まり、車の故障を装った。そして、兵士が車を道の脇に寄せるように指示すると、タクシーの運転手は車から出て、別のもう一人が兵士に向かって銃を乱射し、手榴弾を投げるなどした。二人の兵士が傷つき、武装した犯人のパレスチナ人は殺された。さらに、ジェニンでイスラム聖戦に属する女性が自爆テロ未遂容疑で逮捕されている。

3.シャルム・エル・シェイクでの停戦宣言

 過去においてもエジプトのリゾート地シャルム・エル・シェイクで、イスラエルとパレスチナの和平・停戦に関する会談が行われた。今回の会談は、エジプトのムバラク大統領とヨルダンのアブダラ国王、そしてイスラエルのシャロン首相とパレスチナのアッバス議長の四首脳会談となった。会談の終わりにはイスラエルとパレスチナ両首脳による停戦宣言がなされ、華々しく閉じられた。ニュースでこの会談についてのイスラエル人たちの反応がインタビューで伝えられていたが、多くの場合、あまり楽観的に捉えられていないというのが事実だ。ある女性は、「私は、今までこうした和平の動きを楽観的に受け止めることを常としてきた。でも、もはやそんな希望的観測を持つことはできなくなってしまった」と語り、またある人は、「政治的な観点から言うなら楽観的に受け止めるべきであるということは分かっているが、しかし、それは現実的ではない」とその複雑な胸のうちを明かした。

 事実、すでにパレスチナのテロ組織ハマスは、その停戦合意に彼らは拘束されないと明言している。さらに、レバノンを拠点として活動しているテロ組織ヒズボラもイスラエルとパレスチナの和平合意を歓迎していない。また、シリアとイランも背後でそうしたテロ組織を支援し続けることは明らかである。だから、イスラエルとパレスチナ和平の成功の鍵は、こうした反勢力をいかに抑えていくかにかかっている。

 しかし、それぞれの国が、自国の思惑と利益によって動いている現状を見ると、対シリア・イラン政策、また、対テロ政策において世界が強硬な姿勢で歩調を合わせる事は、あまり期待できない。


三宅弘之
LCJE海外協力レポーター


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