シリアの花嫁

昨日から風邪気味で頭が痛いのですが、レンタルで借りていたので観た映画が次です。

「シリアの花嫁」(2004年 イスラエル・仏・独)

使われている言語が、アラビア語、ヘブライ語、英語、そしてロシア語ともりだくさんです。ゴラン高原に住むドルーズ派の一家の娘が、シリアに住む有名コメディアンと縁戚結婚するため、二度と帰って戻れない国境越えをする話です。二度のイスラエル旅行でゴラン高原とその地域を訪れたことがあるので、非常に楽しく鑑賞できました。初めての方、イスラエル・アラブ紛争のきな臭さが苦手な方でも家族愛が主題なので十分楽しむことができると思います。

この映画について詳しい説明と批評が掲載されているサイトもあったので、ご紹介します。

1.http://www.smilefilm.com/3m/syrianbride.html
(ドルーズ派については http://www.smilefilm.com/3m/syrianbride_golan03.html
2.http://blogs.yahoo.co.jp/ohkawa_jerusalem/folder/1773427.html

2.のブログによると、なんと実際にこの国境越えの婚姻が行なわれているそうです。

この映画で、私がユダヤ人ガイドから受けていた説明と異なっていたのは、その一家の父がシリア帰属運動をしている人であるということでした。映画の中にシリアの国旗を掲げてデモを行なっている場面があるのですが、私は、ドルーズ派はイスラエルへの帰属が強い人々だと教わっていたからです。

それでネットで捜してみたら、ちょうどそのことを取り扱っているニュースがありました。

Golan Druze Seek Peace — and the Heights(訳:ゴランのドルーズ人は平和を希求しつつ、この高原を求めている)

実際にシリア国旗を掲げて帰属運動をしている人たちはいますがそれは少数で、ゴラン高原ドルーズ派の大半は、「故郷はシリアなのだが、イスラエルのほうが政治も経済もいいから、こっちにいたい。」という実際的な本音を漏らしています。といっても完全にイスラエル人になりきっているわけではなく、複雑な心境のようです。「できたら、シリアとイスラエルが和平を結んでほしいが(そうしたら自由に行き来できるから)、ゴランはイスラエルのままであってほしい。」ということです。

要は、「家族、親戚に会いたい」「故郷は『イスラエル』か『シリア』かではなく、『ゴラン』だ。」という本音です。

そして大事なのは、彼らはそのイスラエル帰属を願う本音は、公に漏らすことを恐れているということです。もし仮にシリアにゴラン高原が返還されたとき、シリア大統領からのしっぺ返しがあると見ている為です。

似たような本音を、アラブ系イスラエル人(民族はアラブ人だが、イスラエル国籍を保持する人々)は持っていると言われます。イスラエルとパレスチナの二国家ができたとしても、パレスチナ国に行こうとするイスラエル・アラブ人はほとんど皆無であろうとある人が言っていました。

ここで話を大きく膨らませてしまいますが、私たち自由な国に生きている者たちがしっかりと考えなければいけないことがあります。イスラエルにしろアメリカにしろ、日本にしろ、「反対意見や反対運動を許す」自由を与えているけれども、その反対者らが支持あるいは同情している相手国の多くがそれを許していないということです。ドルーズ派の人々はイスラエルからシリアへは行けますが、シリアからイスラエルへは入れません。旅行者は、シリアやレバノンなど周辺アラブ諸国の出入国をしても、イスラエルへ入国は可能ですが、イスラエルの出入国のスタンプが旅券にあると、それらの国々は受け入れません。

イスラエルは、左派などの入植地反対運動、またイスラエルに反対する意思表明の自由を許しますが(テロなどの物理的な危害を加えない限り)、パレスチナ自治区ではイスラエル寄りの意見を言うことは決して許されません。

皆に嫌われている(?)ブッシュ元大統領は、イギリスの記者会見で「世界はあなたを憎んでいますよ。」と質問されたとき、「大歓迎です。その憎んでいることを表明できる自由を私たちは守りたいのです。」と答えました。この言葉に民主主義国の「自由」とは何なのかが集約されています。それらの国々では自国の指導者を嫌いだ、ということはひそひそ自分の家で話すことはできますが、表立っては言えないのです。

ナタン・シャランスキーは一つの国の自由度を「首都の中心部にある広場で現政府を批判することができるかどうか。」で測ることができる、と言います。

反対している人は、もちろん大いに反対して良いのですが、その自由を与えている国に住んでいるという感謝を決して忘れないでください。

・・・話が思いっきりずれてしまいましたが、映画「シリアの花嫁」、とっても良いです。ご覧ください。