「東ローマ帝国~繁栄と滅亡・皇帝たちの軌跡」を観て

 今、2019年4月のトルコ研修旅行記を書いている最中ですが、初めの三日間は、イスタンブールの歴史的名所の訪問でした。聖書には直接関係がないけれども、ここは、東ローマ帝国の都「コンスタンティノープル」であったということで、キリスト教の世界を観ることができるだろうと思っていましたが、正直、あまり期待値は高くありませんでした。

 けれども、だんだんいつの間にか、惹かれるようになっていきました。何か自分の知らない歴史、今まで全く学校で教えられてこなかった世界史の全貌が見えてきました。そしてたまたま、以下のBS-TBSによるドキュメンタリー・シリーズを見つけ、観ていくと、強い衝撃が走りました。自分が人生の中で知っていた世界で、ものすごい大事なパズルの部分が、全く欠けていたことに気づいたのです。

 そして、それは、聖書の預言そのものでもありました。

東ローマ帝国~繁栄と滅亡・皇帝たちの軌跡

壮大な、長編ドキュメンタリー

 このドキュメンタリー・シリーズの質の高さに圧倒されました。イスタンブールで訪問した所はほとんど網羅されており、歴史の中で文脈をようやくつかみ取ることが出来ました。美しい芸術作品や遺構や自然を、高画質の映像で、ゆっくりと映し出します。このコロナ禍、まさにバーチャルで訪問しているような気分になります。そして、ハギア・ソフィアのバーチャル背景の中で、司会と専門家が解説をします。そこに、当時の資料文献を、夏樹マリさんが演出をもって朗読して、当時の様子を活写します。

 私は、ネット配信Paraviを二週間お試しの無料視聴で視ましたが、有料で購入し保存版にしてもいいぐらい、貴重な作品だと思います。(GyaoAmazon)五回シリーズですが、以下のようになっています。

第1話「もうひとつのローマはこうして作られた」

第2話「最強の皇帝が残した華麗なる芸術」

第3話「帝国の黄金期に潜む陰謀と策略」

第4話「十字軍に救いを求めた大国の誤算」

第5話「滅びゆく全世界の支配者」

キリスト教化された古代ギリシア・ローマ

 東ローマ帝国、これは千年間も続いたローマ帝国です。しかも、ギリシア語を宿すローマ帝国です(ビザンチン帝国とも呼ばれます)。古代ギリシア・ローマは、ここにおいて温存され、研究され、後追いで現れるイスラム勢力は、東ローマ帝国から、これら古代ギリシア・ローマの知恵を学びました。それでイスラム文明が発展します。後に、帝国は十字軍によって襲われます。その時に、莫大な富が東欧から西欧に移ります。そこで私たちの知る、西欧世界が始まるのです。

 ついに1453年に、オスマン国によって滅びます。ところが、オスマン帝国自体が、東ローマ帝国の様式をかなり踏襲しました。そしてオスマンの支配でイタリアに動いて行った人々が、古代ギリシアの知恵と文学、芸術と携えてきました。それで、ギリシア・ローマの古典復興運動であるルネッサンスが花開きます。さらにイスラムが、これら古典の知識を逆輸出で、西欧に伝えます。つまり、すべてが東ローマ帝国から始まっていたのです。

 今現在の欧米社会はギリシアとローマの踏襲と模範であり、ロシアは自らを「第三のローマ」として、東ローマ帝国の栄光と受け継いでいるとします。つまり、世界の大半が、東ローマ帝国の滅んだ後も、深部にまで残り続けているのです。

千年王国的帝国

 なぜ、そこまで発展することができたのか?彼らはキリスト教王国を目指しました。このドキュメンタリー・シリーズは、毎回、意味深な言葉によってスタートします。「彼らはそれを世界の終わりの日までつづく地上最後の帝国であると信じた。」また、「東ローマ帝国が常に追い求めたのは、神の国を地上に造り出す、ということであった。」ということです。世界の中心はまさにコンスタンティノープルにありました。皇帝はキリストの代理人でした。そこで、繁栄も富もここに集まりました。まさに疑似的な、千年王国世界が広がっていたのです。

ネブカドネツァルの夢:「鉄と粘土の足」

 そこで聖書の預言が生々しく想起されるのです。ダニエルの解き明かした、当時の世界帝国バビロンの王、ネブカドネツァルの見た夢、人の像の姿にこうあります。「2:40-43 そして第四の王国ですが、それは鉄のように強い国です。鉄はすべてのものを砕いてつぶしますが、その国は、打ち砕く鉄のように、先の国々をすべて粉々に砕いてしまいます。41 あなたがご覧になった足と足の指は、その一部が陶器師の粘土、一部が鉄でしたが、それは分裂した国のことです。その国にはある程度までは鉄の強さもありますが、あなたがご覧になったように、その鉄は粘土と混じり合っています。42 その足の指が一部は鉄、一部は粘土であったように、その国は一部は強く、一部はもろいでしょう。43 鉄と粘土が混じり合っているのをあなたがご覧になったように、それらは子孫の間で互いに混じり合うでしょう。しかし鉄が粘土と混じり合わないように、それらが互いに団結することはありません。

 第三の王国はギリシア帝国ですが、第四の王国は、ローマ帝国を預言しています。二本の脚があるように東西ローマに分かれました。西ローマも滅び、その千年後に東ローマも滅びましたが、足と足の指には、鉄と粘土が混じり合っています。これこそが、世界にローマが残存している姿です。

 しかし、この夢はそれだけに終わりません。その鉄と粘土が混じり合ったところに、神の御国が大きく広がるのです。「2:44-45 この王たちの時代に、天の神は一つの国を起こされます。その国は永遠に滅ぼされることがなく、その国はほかの民に渡されず、反対にこれらの国々をことごとく打ち砕いて、滅ぼし尽くします。しかし、この国は永遠に続きます。45 それは、一つの石が人手によらずに山から切り出され、その石が鉄と青銅と粘土と銀と金を打ち砕いたのを、あなたがご覧になったとおりです。

 人手によらず切り出された石とは、「家を建てる者たちが捨てた石、それが要の石となった。(マタイ21:42)」とあるように、ユダヤ人指導者に捨てられたイエス・キリスト、神の聖霊によって処女マリアからお生まれになったキリストであられ、人間の諸王国を粉々に打ち砕かれ、大きな山となって、その神の国は永遠に続くのです。ローマ帝国は終わりの日まで永遠に続くという思いはかなわず、キリストによる神の国にとって取って変えられるのです。

国家と契りを結んだ教会

 東ローマ帝国の人たちは、このダニエル書にある夢を「キリストの代理人を王に立てることによって、神の国が永遠に続く。」と間違ってしまったのかもしれません。しかし、「神の国はキリストがもたらすもの」であり、自分たちで造り出すものではありません。むしろ人の造り出す国は、やがて戻って来られるキリストによって粉々に砕かれ、新しい神の国が建てられます。そして、御国の栄光と美は、金や緋色の衣、華やかな建築で彩るのではなく、小さいもの、みすぼらしい外見にも「信仰によって栄光と美」を見るのだと思います。あたかもそれは、ベツレヘムの家畜小屋に、布でくるまれた赤子の卑しさの中に、希望と栄光を見いだしたように、です。

 ダニエルの解き明かした夢を思う時、彼らの見た神の国は、イエスが、からし種によって、どんな木よりも大きくなり、「空の鳥が来て、その枝に巣を作るようになります。(マタ13:32)」と言われた姿だったのではないか?と思います。鳥は、種蒔きの喩えでサタンを意味していました。預言書には、バビロンやアッシリアなど、栄華に富み、権力をふるまっていた帝国に棲んでいる姿に表れます(エゼキエル31:6、ダニエル4:12)。

 当時の、人類史上最大の帝国に迫害されたキリスト教会は、313年のミラノ勅令で公認され、後に国教化され、一気に国の中に組み込まれます。世界の中心とみなされた大聖堂ハギア・ソフィアには、コンスタンティヌスとユスティニアヌスが聖母子に対して、それぞれ都とハギア・ソフィア教会を献上するモザイク画があります。それは、教会が国家と結びつくことを意味していました。

 世の制度に教会が組み込まれることによって、神の国と呼ばれるものが「肥大化」したと言ってよいでしょう。黙示録には、主が、警告をペルガモンの教会に、またティアティラの教会に世に妥協し、背教状態までなっていることを警告されました(2:15-17、2:20-23)

 17章には、地上の王たちと淫乱をしている大淫婦バビロンの姿にまで発展しています。「17:4 その女は紫と緋色の衣をまとい、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものと、自らの淫行の汚れで満ちた金の杯を手に持っていた。」教会が、世の制度に組み込まれた歴史には、純粋に信仰を保った軌跡もあると同時に、世そのものと混在している姿ということができるかもしれません。今も、教会が世の力と富を持っているという婚姻状態は続いているのではないでしょうか?

ドキュメンタリーのしめくくりに同意

 第五話、最終回は、東ローマ帝国の最後の皇帝、コンスタンティヌス11世が戦いの中で消えていき、どこにその遺体が葬られているのか分からない、もしかしたら無名の墓なのか?というところで終わっています。栄枯盛衰のはかなさ、空しさで終わっています。しかし、それでよいのだという満足が私には与えられました。

 王を立て、倒すのは他でもない、神ご自身だからです。彼らの目指した千年王国は潰えましたが、神の国の幻はそのまま傷つかず、残っています。昨年から、コロナ禍、世界の超大国アメリカの大統領選の荒れ具合、中国をはじめとする世界各国の独裁化、伝統的価値観の崩壊など、世界情勢の荒波を見る時に心がつぶれそうにさえなりますが、ここでキリストを見上げる胆力が必要だと思わされました。

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