韓国の皆さんへ - 日本の保守派とは

韓国の皆さんへ、と書いているのですから韓国語で書くのが正当だと思いますが、しかし、私の韓国語力が微妙な問題で十分に表現できると思わないこと、そして日本語の分かる方であれば知日派あるいは、日本在住の韓国の方でしょうから、私の話す事情、背景をよりわきまえておられると思うからです。

まず、私の背景を紹介します。私はキリスト教の宣教師・牧師です。アメリカの教会からの支援を受け、今は、東京中心部で開拓伝道をしています。そして、北東アジアへの働きかけに関わったこともあります。韓国語もある程度話せます。これまで中韓朝の兄弟たちを思いつつ、日本の同胞への伝道を続けている身です。日本のキリスト者にはいろいろな考えがあり、これから話す内容は純粋に、私個人の見解であり、以上、関わりのある人々の見解ではありませんので、よろしくお願いします。

日本保守派は韓国の国是を後押しする人々

私は、韓国の人々に一つの矛盾を感じています。それは、韓国は北朝鮮という共産主義圏との対立によって出来上がった国であり、今でも豆満江までを自国とする休戦状態の国を、自由主義の半島統一を願って支援する日本の保守派に対して、「極右」と言って強硬な反日姿勢を示すことであります。

しかし、実は今の韓国の発展をいち早く手伝ったのは(もちろん日本の国益を考えながらですが)日本の保守派面々であり、日本の革新派はそれに強硬に反発し、親北朝鮮姿勢を貫いていたのです。実に、拉致事件を金正日が公式に認める直前まで、社民党は拉致そのものを疑っているという、とんでもないことを行なっていたのです。

保守派は決して反韓でもなければ、韓国を再支配しようなんていう考えは毛頭ないし、する必要がないと考えています。元々、(次は正しいと言っているのではないので、気を付けて聞いてください)日本が朝鮮半島の植民地化、満州国の設立をしたのは反共政策で、ロシアと対抗するのにどこを防衛線にすればよいか、と考えていたからです。しかし、今、韓国という反共の国がある。この国と綿密な関係を確立することこそが、ロシアと中国の勢力圏、直接的には北朝鮮からの防衛そのものになる、と考えています。これは思想的にも、また歴史を見ても、日本保守派の太い骨格になっているのです。

首相官邸で、月刊朝鮮の編集長、趙甲済氏が安倍氏に取材をしています。13年4月号をご覧になれば韓国語で読めるでしょう。日頃の断片的な情報ではなく、彼の考えがまとまって、しっかりと読むことができます。

趙甲済氏の安倍晋三総理インタビュー

安倍首相は純粋な意味での保守です。彼は韓国を最も大切な隣国であると定義づけています。そして過去の歴史については、筆舌に尽くしがたい痛みがあると述べ、竹島(独島)問題については武力の解決など皆無であると断言しています。確かに、純粋ではない右翼もいます。韓国そのものを敵視し、韓国人や朝鮮人への民族差別を行ない、その文化や民族を貶める、愚かな者たちがいます。しかし一国の首相は韓国が頼みの綱なのです。民族として貶める考えは毛頭なく、むしろ友邦なのです。ただ、彼は愚直にも「日本が大好きだ」と言っているのみです。

ここまで話しましたが、私自身は自民党の支持者ではありません。事実、この前の参院選でも自民党の人には投票しませんでした。今の自民党草案による改憲に対しても慎重です。特にキリスト者としては、信教の自由の制限の含みを持たせている改憲には憂慮しています。

しかし、次のことを忘れてはいけない。政治家たち - 韓国も日本も - の敷いた土台があるからこそ、今の日韓の経済、文化、人的交流ができているのです。韓国は中国ともそれを深く行っていることは承知していますが、日本との比にはなりません。キリスト教会のことを考えても、在日朝鮮人は教会に来ることさえ恐れる状況の中で、全く自由に韓国と日本の教会が交流し、韓国の教会の若者たちが短期宣教で日本に訪れることができているのです。空気のように当たり前になっているものを、もう一度感謝する必要があります。

歴史認識が最も大きな争点

歴史認識問題について、おそらくここが韓国と日本保守派が激しく対立する部分でしょう。けれども、もし韓国が「日本はそのような歴史認識なのだ」と違いを認めても、韓国の人たちにとってはとんでもない歴史観で到底受け入れ難いとしても、それによって彼らが韓国に対する親和姿勢をまったく変えていないのを発見するでしょう。安倍、麻生など古い自民党がいますが、彼らの先輩は、韓国政治家や経済界と太いパイプを持っていましたから、「過去の歴史に誇りを持つ」ことと「今の韓国と強い連携を持つ」ことは、全く一つにつながっており、矛盾していないのです。

もし仮に彼らが朝鮮半島にも武力派遣しなければいけないと考えるのは、北朝鮮が韓国に攻め、赤化統一をした時でしょう。しかし、たとえそのことが起こっても、自民党の古い人々は過去の歴史がありますから、かなり強い自制を働かせると思います。韓国軍を支援するアメリカ軍にほとんどすべて任せ、自衛隊は後方支援に回ることでしょう。

ですから、保守派にとっては韓国への武力行使はありもしないことなのです。日本の防衛白書にも、韓国軍との対峙など、そんなシュミレーションは一切ありません。むしろ、韓国軍が戦う場合には、どのように連携すればよいか、という支援の戦略しかないのです。

以上、「保守派の台頭」→「軍国主義の台頭」→「朝鮮半島支配」というシナリオは、日本から見ますと、被害妄想にしか見えません。原爆が落とされ、敗戦した時に、日本は否が応にも「時代は変わった(植民地時代から新体制に)」を体験した、というのが実感なのです。

慰安婦について

慰安婦については、あまりにも誤解がはびこっているので、悲しいほどです。慰安婦の存在そのものがあったことを否定する保守政治家はいません。それが「民間業者による売春婦だ」と言っているだけです。(ちなみに私自身は、そうは思っていません。そういう場合もあったけれども、軍が強く関与していた場合もかなりあり、混在していただろう、と考えています。)だから、あの風俗問題発言をした橋下大阪市長でさえ、その後、慰安婦の方々に謝罪の思いを表しています。彼の頭の中では、「従軍慰安婦というものはない」というのと、「慰安婦への申し訳ない思い」は矛盾せず、同居しているのです。

そして小泉首相(そうです、あの、靖国神社参拝をした小泉首相です!)は、アジア女性基金を通して、肉筆の署名で謝罪文を一人一人の元慰安婦の方に書いているのです。

小泉首相(当時)の肉筆の署名が入った元「慰安婦」へのお詫びの手紙
小泉首相(当時)の肉筆の署名が入った元「慰安婦」へのお詫びの手紙

この精神を今の首相も継承しており、過去に日本軍の兵士が朝鮮人女性を性欲のはけ口にしたことに対して、とてつもない痛みを覚えると述べているのです。しかし、彼の頭には、「日本国」の面子を守るために、それが軍の命令で行ったのかどうか、つまり国家の意思として行ったかどうかにこだわっているのです。諸外国にとってはどうでもよいことなのですが、そのこだわりは慰安婦の存在を否定したいのではなく、国家の体裁を守りたいという動機から来ているのです。

靖国神社について

そして靖国神社は、極めて宗教的な意味合いを持っています。個人の信仰として、そしてこの国のことを思って参拝する行為として考えています。政治的野心から利用している人も大勢いることでしょう。けれども、その中でも宗教心をもって行っている人たちも多いと思います。私自身は、キリスト者として決してこの動きを決してよいと思っていません。生前に行った善悪が死後に報いがあるという概念を持たない神道は、あまりにも都合の良すぎる考えであり、諸外国には通用しない論理でありましょう。そして、キリスト者や他宗教の兵士が死んでも、選択の余地などなくカミとして神社に祭られるという考えは、許されないと思います。

しかし、政治家の一部は愚直にも、宗教心でそこに行っている人々もいる、ということです。だから韓国や中国が非難すると、「内政干渉」と憤るのです。この溝は、人の宗教を変えることは非常に難しいのと同じぐらい、難しい領域なのです。

麻生副総理の発言

最後に、数日前の麻生副総理のナチス発言について考えてみたいと思います。こちらの記事をご覧ください。

朝日が日本を国際社会の笑い物に…歪曲された麻生発言

この記事は、その発言のあったシンポジウムの主催者が書いたものです。彼女は麻生氏の改憲慎重の姿勢を厳しく批判しています。右派の人々が願っている改憲に、水を差すような発言をしていたからです。彼は自分を「私は最近、左翼だ」と言って、このシンポジウムに臨んだのです。改憲へと焦る彼らを実は牽制していたのです。改憲派でありながら、その勢いを静めようとする、しっかりしない姿勢の中で、あの「手口」という例話がありました。主催者はこう聞いたのです。

「有り体に言って一連の発言は、結局、「ワイマール体制の崩壊に至った過程からその失敗を学べ」という反語的意味だと私は受けとめた。」

つまり彼の真意は、報道で伝えられていることとは正反対だったということです。しかし、この一言が無用な誤解、そして深刻な誤解を諸外国にもたらしました。

対立感情を実行に移さないで!

以上ですが、要は、韓国の人々が危惧するような状態には今、日本はなっていないということを伝えたいと思いました。むしろ、誤解の淵がさらに深まって、事実上の国家間の連携を断ち切ってしまうこと、これだけは避けたい。これを行なったら韓国と日本両国に悲惨な結果をもたらす、という思いで書かせていただきました。

両国が分かれたら、一番苦しみを強いられるのは末端の私たちです。もはや、平和に行き来できなくなるかもしれません。それこそ両国軍が対峙することにもなりかねません。日本に入国ときに厳しい検査が待っているかもしれません。韓流は日本ではなくなることでしょう。私たちが享受している、安定した文化、経済、人的交流が凍結することでしょう。そして私個人としては、信仰を共にする兄弟姉妹との交流にかなり制限が加えられるような事態、同じ兄弟姉妹なのに国によってその絆が引き裂かれること、これを最も危惧するのです。聖書には、「平和を造る者が神の子と呼ばれる」とあります。両国の平和のために、以上のことを書かせていただきました。

謝罪の言葉

最後に申し上げたいことは、韓国の皆様には申し訳ない思いでいっぱいです。このように、日本にこだわり、愚直に日本を再生させたいと思う人たちが、周りの人々がどう感じるかを考えないで発言しているので、その無配慮については、自民党政治家を選出させた日本国民の一人として、謝りたいと思います。今、日本は内部の危機があると思います。みなさんのように自国の歴史を、きちんと教えられて来なかった者たちです。だから、今、一生懸命、過去に日本が何を行なったのかを見ていきたいと願っているのです。けれどもその歴史が歴史観によって真っ二つに分かれている状態です。静かに過去の歴史に触れたいと願っているのに、論争の渦の中に置かれるので、それを避けている日本人も多いことでしょう。そうした、まとまりのない、日本から発信される情報で、韓国の方々の感情を傷つけているのでしたら、大変申し訳ないと思っております。ここで深く謝りたいと思います。

【韓国語による参照記事:독도와 일본선교

【補足投稿: 日本の皆さんへ - 韓国と中国を思いやろう

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