今と昔の日本・イスラエル関係

前記事「ネタニヤフ・イスラエル首相訪日」の補足記事ですが、首相の訪日中は情報を更新していきますので、一度ご覧になった方ももう一度戻って見てください。

私は今回の非常に静かな(?)ネタニヤフ首相訪日を通して、興味深い日本とイスラエルの関係を見つけることができました。

安全保障の協力

一つは、「イスラエル友好議連」という議員たちの集まりを主催している、中谷元衆議院議員の存在です。ネタニヤフ首相がこの場でお話しをしました。
『日本・イスラエル友好議員連盟』主催 歓迎昼食会

中谷氏は、元陸上自衛官であり、テロリズム対策のための法整備等で動いている人です。イスラエル公安大臣イスラエル武官とも会っています。そこで今回の共同声明には、サイバーセキュリティーと日本の国家安全保障局とイスラエルのそれとの意見交換、また両国の防衛当局の交流拡大を図るというものがあります。ネタニヤフ首相は、北朝鮮の核脅威とイランの核脅威の共通課題があるから、協力しなければならないことを強調しました。

かつての日本も、ユダヤ人への働きかけは軍人から始まっています。「安江仙弘」という人物がいます。彼は反ユダヤ主義の古典「シオン賢者の議定書」に興味を示し、翻訳までしましたが、パレスチナとエジプトに訪問した時に、観念的な反ユダヤ文書によるユダヤ人理解の誤りを悟りました。けれども、ユダヤ人の流浪の姿に同情して、陸軍きってのユダヤ通になったと言われています。そこで安田は、満州国におけるユダヤ人保護に尽力しました。彼はイスラエルの「ゴールデン・ブック」に偉大なる人道主義者としての名前が刻印されることとなりました。

そして、ホロコーストから逃れたユダヤ難民を大規模に助けた人物として、「樋口季一郎」がいます。彼は、極東ユダヤ人大会において、日本がドイツと防共協定を結んだばかりなのに、公然と反ユダヤ政策を批判しました。そして「オトポール事件」が起こります。シベリア鉄道によって、ソ連と満州国の国境にあるオトポール駅に、亡命先に到達するために満州国の入国への許可を手配させました。樋口は給食や衣類の配給、医療の実施、そして出国と入植の斡旋、上海租界への移動の斡旋などを行いました。彼は後に、北方領土の死守のためソ連軍と戦闘を交わしましたが、そのためソ連が戦犯にしました。しかし世界ユダヤ人協会がそれを察知、ロビー活動を行い、マッカーサーが引き渡し要求を拒否して、彼の身柄を保護したという次第です。

彼のユダヤ観は健全でした。ドイツの反ユダヤ政策を公然と非難、約束の地への帰還を言及、また軍関係者内のユダヤ陰謀論を一蹴、日ユ同祖論も一笑に伏していました。

なぜ安江氏や樋口氏のような人が、杉原千畝氏と違って知られていないのか?それは軍人であったということでしょう。日本が敗戦したため、軍人ということだけで否定的に見られる傾向があります。しかし枢軸国の中にいながら、反ユダヤ政策に関わらせない牽引力となり、日本を中立に保させた貴重な人物です。そして、ユダヤ人やシオン郷土帰還存在の必然性を杉原氏よりも把握していた樋口氏は、高く評価されてしかるべきでは?と思います。

今回の「日イスラエル共同声明」を見ますと、安全保障と防衛面での協力が前面に出ています。これは総理の「積極的平和主義」の立場にも合致し、この領域での交流は広がるかもしれないと感じます。この傾向を日本キリスト教会は右傾化として警戒していますが、私はもっと視野を広げて、国際的に日本がどう動いているのかを見ていなければ、何か大切なものを見失っているのではないかと思います。

防衛省の中に、安全保障の見地からだけでなく、イスラエルにある神の守りを認め、聖書的見地を持ち合わせた人を神が与えてくださることを祈ります。

反イスラエルの外務省

戦前の日本がユダヤ人に対して、上述したように軍部において、ユダヤ通や親ユダヤの軍人がいたことにより、ユダヤ人陰謀論が流布していたにも関わらず、具体的な反ユダヤ行為に及ぶどころか、むしろユダヤ人を避難させる移住計画(河童計画)まで考えていました。

しかし、外務省自体は日独伊の三国同盟により、その官僚性による結果的に無慈悲な反ユダヤ行為をさせようとしていました。そこで、個人に与えられた良心の上、六千人のユダヤ難民に通過ビザを発行したのが「杉原千畝」です。

彼のビザ発給に対して拒否したのは、当時の松岡洋右外務大臣です。しかし彼自身が反ユダヤだったかというとそうではなさそうです、杉原氏はその後も懲戒処分にされることもなかったこと、また、松岡自身が樋口氏とオトポール事件で積極的に動いていた事実、またヒトラーの反ユダヤ政策は実施ないと公言していたことからも、ここにも外務省の中における日本としての中立性が保たれました。

しかし、敗戦後の杉原氏に対する外務省の仕打ちがあまりにも酷いものでした。外務省というのはとかく国際関係を官僚的バランス感覚で動くため、原則や理念で動こうとする者を踏みにじる傾向にあります。イスラエルやユダヤというのはその極致的存在ですから、それに肩入れするのは最も面倒くさい作業と捉えるのでしょう。アメリカでさえ、イスラエルの建国独立を猛烈に反対したのは国務省でありましたが、時のトルーマン大統領は母親の影響で聖書に幼いころから親しんでいたため、良心的な見地からいち早くイスラエル国を認知したという経緯があります。ましてや日本の外務省は、杉原氏のした行為を激しく憎んだことでしょう。

今の外務省には、反イスラエル傾向の強い者たちがいると言われています。イスラエルから見ると、年を追ってますます外務省のイスラエルへの態度が悪くなっていると言われています。しかし今の岸田外務大臣がイスラエル嫌いのようには見えません。

安倍ドクトリンによる国家世界戦略

おそらくそれは、安倍第一次内閣の時に始まった「価値観外交」と無関係ではないでしょう。今回の会談でも「平和と繁栄の回廊」構想は継続されるという確認を取りました。この構想こそが、アメリカの外交的仲介による、時に強圧的にさえなる和平よりも、はるかに実質的な中東和平につながるのではないかという理念を持っています。

イスラエルとパレスチナの共存共栄に向けた日本の中長期的な取組:
「平和と繁栄の回廊」創設構想(外務省から)

「平和と繁栄の回廊」創設構想今のパレスチナ問題は、一にも二にも「自立できない」という問題があります。自治区はイスラエルに経済的に完全に依存しており、その経済が成り立っていないため、処々の問題が起こっています。国家になっても国家としての基本的機能さえ動かないでしょう。したがって、入植地建設を和平交渉の妨げとするパレスチナ当局は、実は入植地建設こそがパレスチナ人の働き口となっているという矛盾に面しているのです。その部分に日本政府は独自の仲介としての経済開発を試みているのです。ですから、米国の仲介よりも、私個人は日本の構想のほうが実質的な解決を与える方向性を秘めていると思います。

そしてこの「平和と繁栄の回廊」が、実は日本独自の世界外交戦略「自由と繁栄の弧」につながっていると言われています。

2008年09月25日国連にて麻生首相一般討論演説 自由と繁栄の弧の言及がない?

自由と繁栄の弧は、まさにこれまで安倍首相が外遊によって回ってきた国々であり、これが今、基軸として日本独自の世界戦略となっているのです。

「拡がる外交の地平」
~日本外交の新機軸~(外務省HP)
自由と繁栄の弧

この世界戦略の対極が、「東アジア共同体」と呼ばれる構想です。東アジア諸国が他の欧米の地域連合体に対抗あるいは拮抗する形で連帯する経済ブロックです。これは第一次安倍内閣が倒れた後、福田内閣から始動し、民主党の鳩山政権において絶頂に達しました。

しかし、安倍第二次内閣において再転換し「自由と繁栄の弧」に戻りました。これは、ユーラシア大陸を囲む形で、民主主義と市場経済を共有する国々との共生繁栄を目指す外交です。これは価値観に基づく外交なので、中国やロシアは経済的結びつきはあっても、政治体制やその他の価値観において根本的な違いがあるため、この二つの大国を取り囲むような形の「弧」となっています。したがって、中国はもとより、東アジア共同体的な考えを持つ人々からも批判されています。

今回、ネタニヤフ首相も強烈な価値観外交を展開させているため(彼の場合はイラン包囲網を作っています)、安倍首相のそれと親和性があったのではないかと思われます。

世界戦略にある日本の行く末

マスコミによる安倍首相の発言についてに報道に、こうした安倍ドクトリンを意識したものをほとんど見受けることはありません。彼は上にあるような明確な日本独自の世界戦略をもって、日本の生き残りと世界における自国の地位の確保を意図しています。かつて日本は「大東亜共栄圏」という構想を持っていました。「東アジア共同体」構想は大東亜共栄圏に近いものがあり、日本を基軸にすると過去の再来ということで、中韓が強く反発します。ですから実質的に中国が中心軸になります。しかし、中国と島の領有問題を引き起こしているフィリピンやベトナムがあるように中国を中心にしたくないという国々は多いことでしょう。けれども今、中国は、彼らの持つ世界戦略の中でアフリカ諸国等を自分の影響下に入れています。その中国との対抗という意味合いもあって、せめぎあいの競争をしているのが現安倍政権ではないかと私は見ています。

聖書的には?

国の動きというのは神の主権があり、しかし悪の勢力が国の動きの背後にあるという図式は変わりません。ですから自由と繁栄の弧なのか、東アジア共同体なのか、甲乙を付けるのはできないのですが、聖書預言的には東アジア共同体は、世界を十の地域に区分けする、ダニエルが預言した世界に一歩近づいたものとなります。

十本の角は、この国から立つ十人の王(7:23)
あなたがご覧になった足と足の指は、その一部が陶器師の粘土、一部が鉄でしたが、それは分裂した国のことです。(2:41)

ならば「自由と繁栄の弧」を私は支持するか?そうとも限りません。神の主権は、人間の努力や意図で達成されるものではなく、むしろ悪の勢力があってもなおのこと凌駕して、勢いよく進む計画に基づいています。事実、中国にこそキリスト者が大勢います。したがって、要はどちらでもよいと思っています。むしろ、それぞれの国に神がお立てになった指導者のために祈っていくことが、我々、後にキリストとの共同統治者になる私たちに課せられた使命であると思っています。

日本に決定的に欠けているもの - 聖書

今回のイスラエル首相の訪日によって、改めて私は日本は「無関心」という病気に罹っていることが分かりました。また安倍首相が、聖書に触れてくれたらと切に願います。今回の首相会談で、安倍氏が聖書的見識はおそらくほとんどないと感じました。事務的に日本の外交方針に従って動いているのですが、神がユダヤ人を選ばれて世界を動かされるという、その摂理を知っているようには感じられませんでした。

安倍氏が「杉原千畝」と「東日本大震災によるイスラエルの医療チーム」を引き合いに出しましたが、ネタニヤフ氏は「イスラエル独立をアジア諸国で最も早く認知した国」として日本への敬意を示しました。杉原千畝氏はイスラエルではほとんど知られていない人物なのだというのは知っていたでしょうか?日本国民のみを意識した発言であることは明らかです。しかしイスラエルにとっては、先に取り上げた一部の軍人や外交官によって支えられてきた対ユダヤ人方針に敬意を払っているのです。美談ではなく、国と国をかけた友好をネタニヤフ氏は求めているのです。

一方、聖心を卒業した昭恵夫人は、自分のフェイスブックにサラ・ネタニヤフ夫人といっしょの写真を掲載しています。ご本人は意識していないと思いますが、聖書に触れたこととは無関係ではないと私は思います。

「今と昔の日本・イスラエル関係」への2件のフィードバック

  1. 杉原千畝氏をイスラエル人がどの程度知っているかは、日本人でもどの程度知っているか分からないのと同じかもしれません。
    しかしながら、イスラエル(ユダヤ人団体)から彼に勲章とか感謝状が贈られているのは、アンビリバボーでも紹介されていましたし、知っている人は知っているし、知らない人はやはり知らないと思います。
    むしろ河童計画は勿論、(私は『2014年ユダヤの大預言』久保有政著で初めて知ったハズですが)今となっては、満州で人体実験を実施した石井部隊の存在でさえ、知らない人の方が多いのではないでしょうか。
    これだけ折角調べられているのですから、杉原氏をイスラエルは知らないとする根拠までも、出された方がより正確だと思います。

  2. 一般の人々は知らないということです。もちろんヤドバシェムには正義の諸国民として、彼の木も植樹されていますが、彼のような人は他にも大勢いて、彼の功績は埋もれてしまっています。(ついでに話しますと、クリスチャンの間で有名な、コーリー・テン・ブームもイスラエル人には知られていないとの説明をヤドバシェムで受けました。)旅行のガイドの方が言われていたし、イスラエル在住の日本人もそう言っています。だから、安倍首相の発言をイスラエル人が聞いたとしても、「ああ、そうなんだ・・・でも知らなかったな?」という程度になってしまうだろう、ということです。あまり難しく考えないでください。

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