福音派の親イスラエル聖書理解と実践の重み

今年は、イスラエル建国七十周年ということで、その記念を意識した本が出版されていますが、先日は、「イスラエル - 民族復活の歴史」(ダニエル・ゴーディス著)を紹介しました。

けれども、これはイスラエル近現代史の世俗的側面を主に取り扱っていて、一般図書としては最適ですが、では、聖書信仰を持っているキリスト者が現代イスラエルをどのように見るかについての議論は「無い」と言ってよいでしょう。

聖書なくしてシオニズムはあり得ないのですが、シオニズム自体が、旧来のユダヤ教伝統の中に生きていたユダヤ人からの脱皮を意味しており、世俗の国民国家です。最後の章、また翻訳者の解説で、宗教的ユダヤ人への回帰について少し取り扱っています。

イスラエルを後押しした聖書信仰のキリスト者

しかし、聖書信仰によって民族的ユダヤ人と、シオンの地へ帰還を促す歴史は、既に英国においてスポルジョンなど、霊的復興が起こっている時に胎動としてありました。第一次大戦後、英国委任統治領となっていたパレスチナをユダヤ人の民族郷土と定めたバルフォア宣言へと至ったのですが、バルフォア伯爵自身も、当時の首相デビッド・ロイド・ジョージ伯爵も、熱心なキリスト者であり、奴隷制廃止を成し遂げたウィルバーフォース議員など、その他大勢の福音的信仰に立った者たちの間のシオニズムへの後押しは始まっていました。(参考記事:イスラエル旅行記

参考:The History of Christian Zionism (Mike David Evans)

そしてその聖書信仰は、米国にも霊的復興の中で植え込まれ、イスラエル建国を国務省の熾烈な反対にも拘らず米合衆国として認知したトルーマン大統領も、母親の熱心な聖書信仰に影響があるとされます。黒人の公民権運動の指導者、キング牧師もユダヤ人国家であるイスラエルを支持し、六日戦争もその正当性を支持しました。従来から重厚な、イスラエルへの情熱と支援の信仰が、プロテスタント教会の中で育まれています。

日本にある親イスラエルの潮流

日本では、近年になってから福音派の教会の中に、イスラエルを霊的に物質的に支援する輪が広がっているようですが、主に、米国から伝えられている神学や運動であるため、そこにある深みや厚みを知る必要があるのですが、そこまで伝わっているとはまだまだ言えないでしょう。率直に申し上げると、まだ「流行」の域を出ておらず、それが潮流となるまでには時間をもっと必要とするでしょう。

しかし、日本には戦前からイスラエルのために祈っていたホーリネスの教会の群れがありました。その歴史にある霊的な流れは脈々と続いているのを感じます。

そして戦後ですが、プロテスタントや福音派とは別個に、無教会主義の流れから出てきた幕屋の群れは、ユダヤ教研究や現代イスラエル理解において、出版社「ミルトス」や旅行社「テマサトラベル」など、日本において、学術的にも実践においても最も権威ある位置を占めていると感じます。(ここで、従来のプロテスタント神学と幕屋の方々の考えの距離については、議論を横に移します。)

日本福音派教会による表面的批判

以上、説明しましたように、イスラエルを後押しする聖書信仰とその実践は、「ディスペンセーション神学」「宗教右派」「レフトビハインド」に対する批判に代表される、日本の福音派でしばしば指摘されているような、表面的なものでは決してないのです。ビリー・グラハム師が天に召された時、大統領や米政府こぞってその死を悼んだのを日本では未信者の方々までが驚きをもって眺めていたのと同様に、聖書信仰とイスラエルのつながりは、世界の潮流の中で”底流”に属する程、深い部分に流れています。

参考:The New Christian Zionism: Fresh Perspectives on Israel and the Land (by Gerald R. McDermott)

福音的教会が、現代の流れに応答する本

そうした現代イスラエルに対する聖書的立場とその実践についての議論を、イスラエル七十周年に合わせて発行したのが、先日、ご紹介した以下の本です。

Israel, the Church, and the Middle East(A Biblical Response to the Current Conflict)
「イスラエル、教会、そして中東」
(今現在の紛争に対する聖書的対応)

編集者は、ルカ伝の注解書で著名なダレル・ボック教授(ダラス神学校)と、ユダヤ人宣教に従事するChosen People Ministriesのミッチ・グレーサー代表です。けれども執筆者は、実に13名もの福音派神学校の神学者や宣教従事者によって行われており、今日の課題を様々な側面から取り組んでいます。(書評ブログ

裏面に書かれている説明を大まかに訳します。

「教会とイスラエルの関係は、教会史を通じて、熱い議論が交わされてきた。近年になって、福音派の親イスラエルの伝統的立場が、パレスチナの大義を支持する人々によって非難を浴びている。それに伴い、神の契約と約束によって、イスラエルの地はユダヤの民のものだと信じているキリスト者による、新しい視点と微妙に違うアプローチが必要とされている。

『イスラエル、教会、そして中東』は、現代の教会が置換神学に逸れていっていることを指摘し、神はユダヤ人に対する計画と目的を保っておられることを示し、その一方で、イスラエルやその土地の権利に批判的な著者によって提起されている、二分される様々な争点を取り上げている。本書は、紛争に関わる聖書釈義や、また広範囲に及ぶ影響を探求している。例えば、ユダヤ人伝道に対して教会内で根強い反感が増えていることだ。読者には、温和で敬意の空気の中で、客観的かつ学際的な取り組みを提供できている。

本書は、牧師、世界にいるキリスト教指導者、神学生、また、中東紛争に関して指針や資料を積極的に求めている、意識を高く持っている一般キリスト者向けである。執筆者は、福音派の中の広範囲な人々を代表している。」

聖書の基礎:「イスラエル、ユダヤの民、そして神の契約」

第一部「聖書の基礎」の一つ目を読み始めましたが。それだけでも、かなり骨のある議論を展開しています。筆者は、トリニティ神学校のリチャード・エイヴァベック教授によるものです。かなり読み応えがあり、二回、読み返しました。

聖書における「契約」とは何かを定義し、神の贖いの契約を歴史を追ってどのように進展したのか、契約神学とディスペンセーション神学も取り上げますが、その体系の対比ではなく、前提に聖書に流れている、アブラハム、モーセ、ダビデ、そして新しい契約を辿り、その全体に流れる贖いの物語への理解を提供しています。そして、アブラハム契約にある土地の約束は、今でも有効であるという立場を取っています。

こちらに、この内容についての筆者本人による動画がありましたのでご紹介します。

聖書の基礎:「イスラエルとその隣国」イザヤ19章

「聖書の基礎」の二つ目の筆者は、ウォルター・C・カイザー教授で旧約聖書の専門家、ゴードン・コンウェル神学校の元学長です。イザヤ書19章のエジプトに対する預言の解説なのですが、教会は従来ここを、比喩的、寓話的に解釈していたそうです。けれども、ここをそのまま解釈すると、エジプトが主に回心して、そして、イスラエルの南北に居座り続けた敵、エジプトとイラク(アッシリア)が、イスラエルと共に主を礼拝する三国となるという幻になっています。これは、中東紛争におけるユダヤ人とアラブ人の和解にもつながる、大切な聖書解釈でしょう。

関連記事:「エジプトの預言(イザヤ19章)」「「平和活動」対「キリストの平和」

続きは、このブログ記事で追加して書いていきたいと思います。また、後日、こちらに立ち寄ってください!お楽しみに。

「福音派の親イスラエル聖書理解と実践の重み」への1件のフィードバック

  1. いつも楽しく拝読させていただいております。
    といいつつ、不勉強ゆえ半分も理解できていない(だろう)こともしょっちゅうです。
    今後のブログをもっと楽しく有意義に読むため、少しは理解度を深めていきたいなと思いますので、本日のブログについて教えてくださるととても嬉しいです。

    【聖書にいう選びの民としてのユダヤ人と、現在のイスラエルの国・国民はどのような関係があるのでしょうか】
    人種的に言うと、ディアスポラ後の人種混交により、現在のイスラエル国民は聖書時代のユダヤ人とは全くの別物になるのかと。
    (現地を旅行したことがありますが、アシュケナジムとセファルディムに代表されるように、イスラエルには様々な人種がいるんだなと思いました)
    世界史の教師からも「ユダヤ人という人種があるわけじゃないんだよ」って教わったことを覚えています。

    それじゃあ宗教的観点、すなわち「ユダヤ教徒」が神に選ばれた民としてのユダヤ人なのでしょうか。そうすると改宗してユダヤ教徒になったイヴァンカさんなども含まれるということに。逆にマルクスやフロイトはユダヤ人ではないということになります。
    そして現在のイスラエル国民は神を信じない人やイスラム教徒も大勢いますので、必ずしも「ユダヤ教徒」の国ではない現在のイスラエルを福音派の方々が特別扱いするのはなぜ?と思います。

    現在のアラブ人と聖書のイシュマエルは実は関係がないと聞いたことがあります。同じように、現在のイスラエル人・イスラエルの国と聖書のユダヤ人は実は関係がない、ということはありえるのでしょうか?

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