「プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア」

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「プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア」(小泉悠著 東京堂出版)目次

それほど頁数の多い本ではありませんでしたが、これまでロシアについて知らなかった私は、地名とか、どんどん新しい名称や情報が出て来るので、話を追っていくのに脳みそを使いました。

聖書に出て来る役者

ずっと前から気になっていた国 ― ロシアです。

私たちは、知らず知らずのうちに、西側諸国の情報や教育、また視点で世界を見ています。日本は戦後、米国の占領下にあり、その延長で教育を受け、それから日米同盟を始めとして、世界の勢力均衡の中では西側の陣営にいますから、欧米からの情報源を主たるものとしています。特に米国の主要マスコミからのものを、表面的に翻案されているものがほとんどです。

けれども、聖書は、イスラエルを中心とするその周辺地域が舞台です。エデンの園から始まりますが、それはユーフラテス川やティグリス川の流域、すなわちイラク辺りであり、そしてアブラハムがカナンの地に渡り、そしてエジプトからの脱出がありと、創世記10章を見れば、欧州南部からロシア南部にかけて、それからイラクとイラン、そしてアラビア半島と北アフリカに至る一帯までが、聖書が具体的に網羅している地域であります。

その中で、聖書の預言において、ロシアは大きな登場人物となっています。

一つは、エゼキエル書38‐39章の「マゴグの地のゴグ」です。これはカフカス(コーカサス)地方にあり、今のロシアにあります。それから、ペルシヤはイラン、ベテ・トガルマはトルコであり、クシュはエチオピアとスーダン、ルデはリビアとなっており、昨年末にシリア内戦にとりあえずの停戦をもたらしたのは、ロシア・トルコ・イランという三国です。イザヤ17章にあるダマスコの廃墟と共に、エゼキエルの幻がかなり近づいているのを見て取れます。

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ロシアはイランとも軍事的に強い結びつきを持ち、トルコとも友好関係に入っています。さらにイランとトルコも最近、強い結びつきを持っています。

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「第三のローマ」ロシア

そしてもう一つは、ロシア自身が自国に対してローマ帝国の継続を主張しているということです。古代ローマが東西に分裂し、西はローマ、東はコンスタンティノープルが中心となりましたが、ロシアはその後に続く「第三のローマになった」というものです。

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「第三のローマ」については、次にこの本を読みたいと思っています。

「宗教・地政学から読むロシア 「第三のローマ」をめざすプーチン」(下斗米伸夫著)

これは、ダニエル書2章にあるネブカデネザルが見た人の像の、「鉄と粘土が混じった状態」であると言えます。それぞれ崩壊後、西の残滓が仏独など欧州諸国の帝国に留まり、東の残滓は露に移ったとも言えます。

そして、それぞれが力を持ち始めました。西は近代に入り、欧米列強として植民地主義を通して世界を征服していきました。東もまた、ロシア革命によって国際共産主義によって世界の共産化が広がりました。また、西欧から欧州連合が起こりました。ベルリン崩壊後、ロシアは弱体化しましたが、それでもプーチンの指導力によって世界への影響力を及ぼしています。

これからダニエル7章にあるように、第四の獣、十本の角を持ち鉄の牙を持つおぞましい獣がまた息を吹き返す時代に入っていきます。ローマの復興です。そこでロシアも、聖書の中で大きな役割を果たすということを思っていました。けれども、どうしても手が届かない、という思いでありました。

「強いようで弱く、弱いようで弱くない」ロシア

そういったことを期待して、この本を手にしました。元々、中東については池内恵准教授による著書がとても役に立ったのですが、彼が小泉悠氏というロシアの軍事や安全保障を専門にしている人を薦めていたので、目に留まったのです。

「軍事大国ロシア」(池内恵氏による書評)

ロシア側の世界観や認識を読み解くことは、中東において強国になっているロシアを読み解くのに頭が整理されるとのことですが、著書そのものには、中東との関わりについてはほとんど書かれていなかったのが残念でした。けれども、ロシアの世界観や認識というものは、国家戦略を、軍事が中心ですが、全般に渡って網羅したので、感じ取ることができました。下の記事に、その書かれてあることの多くが、言及されています。

「ロシアの世界戦略はどうなっているのか? 小泉悠×荻上チキ」

「ロシアは意外に臆病な国」というのは、そうだなと思いました。上の記事から引用します。

 「よくロシアの人々は、「我々は包囲された要塞に住んでいる」という観念を持っていると言われます。ロシア側から見ると、広大なユーラシア大陸の真ん中にあり、周りはアメリカの同盟国ばかりです。その上、自分たちがワルシャワ条約機構を解体したのに、NATOはますます拡大してくるではないか。あるいはロシアが拒否権を持っている国連をバイパスして、勝手に軍事力を行使するではないか。そう考えると、自分たちにとって平和である、安心できると感じられるためには、単に友好的なだけでは不十分だ。常に力を行使することで、どうにか均衡がとれているんだ、くらいに考えているのだと思います。

恐れが基底にあって、いろいろな行動に出ています。そして「力」を信じています。そして、「勢力圏」という概念があり、そこを脅かされると攻勢に出て来ます。アフガニスタン侵攻、チェチェン紛争、クリミア併合、ウクライナ侵略など、外からは納得できない戦争を仕掛けているようですが、それはロシア領でなくとも「勢力圏」が脅かされているという恐れがあるからです。エゼキエル38章4節、「わたしはあなたを引き回し、あなたのあごに鉤をかけ、あなたと、あなたの全軍勢を出陣させる。」という表現にぴったりだと思いました。

序章の「プーチンの目から見た世界」というのは新鮮でしたし、彼の対NATO政策について、全面的なガチンコではなく、目に見えないようにして、非正規軍によって攻め取っていく、「ハイブリッド戦争」を導入させています。そのハイブリッド戦争を、「ウクライナ紛争とロシア」という章で詳しく論じています。それから「核大国ロシア」という章では、アメリカより核戦力が劣るなかで、積極的に核を使用するという戦略によって、均衡を保とうとする危ういものです。そして、「旧ソ連諸国との関係」という章においては、自国について来てくれると思っていたところが、互いに不信感を募らせている様子がうかがえます。そして「ロシアのアジア・太平洋戦略」においては、シベリアのほうに人口が極端に少ないという状況で、分裂を恐れ、またロシア全体の国力が低いため、そこを何とか開発しなければいけないという思いから、中国との蜜月関係、そして日本とも積極的に付き合おうとしています。北方領土に軍事基地があるのですが、もっぱら日本敵視だけではないことも述べています。

そして私が興味をそそったのは、「ロシアの安全保障と宗教」という章です。残念ながら、ロシアの主要な宗教である「ロシア正教」については、統計上多いということだけで、あとは周辺国でも同じ正教であっても、独立するかどうかということで対立や緊張が起きているという話だけに短く終わっていました。先の「第三のローマ」のほうで調べていきたいと思います。

けれども興味をそそったのは、「イスラム・ファクター」です。ロシア南部である中央アジアや北カフカス(コーカサス)地方は、「柔らかな下腹部」と呼ばれているらしく、いつ何が起こっても分からない不安定要因が多いことを表しています。それで、そこにイスラム過激派が独立闘争の中で入り込み、イスラム国へとつながっている様子を描いています。

そして、このカフカス地方こそが「マゴグの地」であり、そこにイスラム国関連の過激派がいるというところに、「彼らはみな馬に乗る者で(38:15)」という箇所に合致します。イスラム国が軍事パレードで馬に乗っている のは有名です。

そして、「軍事とクレムリン」の章では、政府中枢、プーチンの意思決定は極めて内輪の、元KGBの仲間であることが詳しく書かれています。このことについては、次の本を読もうと思っています。

「プーチンの世界 「皇帝」になった工作員 」(フォオナ・ヒル著)

そして、「岐路に立つ「宇宙大国」ロシア」の章では、かなり宇宙開発において失墜してしまった様子を描いています。その中でも興味深かったのは、ロシア版のGPSであるGLONASSが、シリアの反政府勢力への攻撃で、巡航ミサイルの時に使われた、という記述でした。

イスラエルへの侵略は?

本書において、中東ことにイスラエルに対するロシアの介入についての言及が、なかったことは残念でした。間もなく、6月5日で六日戦争五十周年になりますが、ロシアはこれまで、中東戦争において不気味な介入をこれまで行ってきました。六日戦争ではKGBがイスラエルについてシリアに誤情報を流して戦争を促し、ヨム・キプール戦争では直接的介入をしました。

参考文献:「第三次中東戦争全史

そして今も、虎視眈々と狙っています。

「ロシア系の保護」という名目

本書で気になったのは、ロシアが戦争を勃発させる時に「国防法」の中に「外国に居住するロシア国民の武力攻撃からの保護」というものがあることです(109頁)。そしてロシア国民というのは、グルジア戦争やクリミアへの介入の時に、「ロシア人への保護」「ロシア語を話すロシア系住民」という拡大解釈になっていたことです。イスラエルには、ソ連崩壊後、極めて多くのロシア系の人たちが帰還しています。

崩壊前後のソ連からイスラエルにユダヤ人が大移動(原田 健男)2016年4月

上の記事には、ロシアからの帰還民が全人口の15㌫になっているということ、そしてイスラエルの入植地に移り住むことなど、「イスラエル我が家」という右派政党も立ちあげたということなど、右傾化を推進させた人々として登場し、また科学者を排出、経済活性化にも貢献している様子も書いています。今のロシアの外交政策、云わば戦争の大義として、これらの大勢のロシア系ユダヤ人の保護とか、何らかの建前を作って攻めてくるということが、あり得ます。

「家畜や財産を持っている民」(エゼ38:12)

そして、ロシアは、基本的に石油などの資源に経済の比重が大きいため、石油や天然ガスへの飽くなき追及は非常に強いです。(関連記事:「天然ガスの供給で今後もヨーロッパ支配を狙うロシア」)そしてイスラエルに対する、ロシアの思惑が見事に説明してくれている記事がありました!ぜひ一読してみてください。

ロシアとイスラエルの軍事衝突は回避できるか

・中東において、イスラエルが最強の武力を有していたけれども、イランの軍事力、ロシアのシリア介入により、以前より破壊力を持たなくなった。

・ロシアがシリアにミサイルシステムを配備したことによって、イスラエル空軍の在シリアのヒズボラへの空爆が傍受されるようになった。

・しかしロシアはイスラエル機を撃墜していない。暗黙の了解が両首脳の間で交わされているからだ。それは、「イスラエルからおよそ100キロの沖合に埋蔵する天然ガス田の開発にロシア企業も参加するということと関係しているのだ」とのこと。

・そして、ロシアにとってイスラエルは信頼でき、それは人口の15㌫が旧ソ連からの移民だということ。

関連記事:「石油・天然ガス資源と聖書預言

以上から、ロシアがイスラエルに攻めて来るシナリオが、さらに生々しいものとなりました。うす

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