Six Days of War(戦争の六日間)

次に紹介する本はこれです。

“Six Days of War: June 1967 and the Making of the Modern Middle East ” (by Michael B. Oren)
(「戦争の六日間:1967年7月と現代中東の発展」マイケル・オレン著)

六日戦争を知るには、これが「ザ・ブック」だそうです。日本語に訳されていないのが残念!(注:2012年12月24日後記:なんと邦訳が今年の始めに出ていました!!!「第三次中東戦争全史」ぜひ、次の日本語の書評をお読みください。内容と概要がよく分かります。「日本経済新聞」「弁護士会の読書」)

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中東情勢を知るのに、独立戦争だけでなく六日戦争についての知識は絶対です。聖書を学ぶ人にとっては、独立戦争が「1948年のイスラエル建国」という出来事、そして六日戦争が「エルサレムがイスラエルの主権に入る」ということで、非常に大きな意義を持ちます。前者の代表的な聖書箇所は、エゼキエル37章の涸れた骨が肉を持つ幻、そして後者はイエス様が、「異邦人の時が終わるまで、エルサレムは踏み荒らされる」と言われたことに関連します。では、感想をかいつまんでお話します。

1)前の「おおエルサレム!」と同じく、単に六日戦争の軍事行動だけでなく、むしろその戦争に至った文脈、そしてその戦争がもたらした中東全体への影響を教えてくれます。こちらも小説のように読み進めることができ、一つの小さい出来事が他の出来事に関連し、それが発展・拡大して戦争にいたる様子を描いています。

2)彼は公開された文献をものすごく調べています。これまでの英文とヘブル語の文献のみならず、アラブ語そしてロシア語の文献も調べています。なので、イスラエル側だけでなくアラブ側の指導者層の動きも生きているように読むことができ、興奮しました。

3)この本や、他の文献を通して、アラブ諸国におけるエジプトの地位を知ることができました。聖書時代と同じく、エジプトは大国として大きな役割を果たしています。六日戦争はナセル大統領がイスラエルを挑発したわけですが、彼の心の動きなど詳細に描かれており、非常に興味深かったです。

また、イザヤ書・エレミヤ書にあるエジプトの預言、また私が去年訪問したエジプトから、その預言に書かれているエジプトが近現代のエジプトに重なります。国民性、国家の性格は昔と今は変わっていません。

4)イスラエルの指導層の動きも生きています。彼らが全滅させられるという危機感を抱きながら、大勝利を得られるという大胆さを同時に持っているのですが、その背後に神を見るのです。聖書に出てくるイスラエルの戦いの歴史が、それだったからです。「選びの民でありながら、自分たちが選ばれていることに気づいていない」ことを思います。

5)六日戦争でもアメリカ政府内のさまざまな動きがあったのですが、この時アメリカはベトナム戦争によって気を反らされていました。ですから、アメリカの支援をほとんど受けることなく戦争が始まったというのがこの戦争の大きな特徴です。

6)日本で売られている書籍、インターネット情報は、こうした偶発的にも思える出来事を、「何か合理的な説明ができなければいけない」という前提から「陰謀があった」と見ます。けれども著者は(おそらくは世俗的ユダヤ人なのですが)、政治決断は必ずしも合理的判断によるものではないことが分かった、という感想を述べています。これがまさしく私たちが信じる神の御手のことを指しており、人間の恣意的な操作を超えたところにある歴史の必然です。

著者について少し説明しますと、マイケル・オレン氏は歴史家です。もともとユダヤ系アメリカ人でしたが、イスラエルに移住し、イスラエル国籍を得ました。軍部にも従事しそして今は、ネタニヤフ政権によって在米イスラエル大使に任じられています。彼の新しい著作”Power, Faith, and Fantasy: America in the Middle East: 1776 to the Present“(「力・信仰・空想:中東にあるアメリカ:1776年から現代まで」)を買いました。アメリカ建国以来の中東への関わりを追っています。これから読むのが楽しみです。

(後記)「「六日戦争」は1967年6月5-10日 その2」に、Amazon.comにある本書の書評を意訳しました。