「中東 危機の震源を読む」

先ほど完読しました。「現代アラブの社会思想」を読んで以来、池内恵氏による著書は、アラブとイスラムに関わる情勢分析としてとても役に立っています。内容については、以下の書評から一部をご紹介します。

新潮社サイト

「イスラーム」を知るための必読書。
「論壇」を考えるための必読書。

本書は、中東・イスラームの「入門書」として最適の一冊です。
パレスチナ紛争・自爆テロ・イラク戦争・イラン核疑惑・新疆ウイグル・ソマリア海賊・ドバイ経済など、日本の読者が知りたいと思うであろう諸問題が、ほぼすべて網羅されています。
特に「イスラーム世界と西欧近代社会の価値観の衝突は回避できるのか?」というテーマについては、深く考察されています。日本の言説空間でまかり通っている「イスラーム教は他宗教に寛容」「テロの原因は格差と貧困」「すべてはイスラエルとアメリカが悪い」というような一面的な議論に満足できない読者にとって、本書は必読書です。

これは、「フォーサイト」という雑誌に2005年一月から2009年五月までに掲載された記事を編集したものですが、エジプトの国内事情を読むと、今年から起こっているアラブの民主化を容易に予測できそうな雰囲気です。事実さえ知っていれば、今回の出来事は不意に湧き上がった話ではないことがわかります。上の書評記事はこう続けています。

 また、本書の「むすびに」に書かれている、日本の論壇に対する鋭い批判にも要注目です。
著者は、論壇誌が次々と廃刊になるのは、空疎な「論争」の軸を提起して盛り上がり、乏しい事実認識からなされる短絡的で情緒的な主張を「想像力」ともてはやすばかりで、肝心の「事実」に到達するための営為を軽視しているからではないのか、と問います。

――「単なる事実」を求める「レポート」の価値を感じられない人は、何か大きなものへの怖れを失った人であると私は思う。――(349頁より)

その他、具体的記事の紹介については、次の書評が良いでしょう。

書評216:池内恵『中東 危機の震源を読む』その1
書評217:池内恵『中東 危機の震源を読む』その2

ただ、イスラエルについては、流布している論評に比べると、確かに政治的公平さと客観性に極めて優れていますが、イスラエル事情を追ってきた者としては、前提の事実が違うのでは疑問に思うものも結構あります。それでもやはり、「イスラム・アラブ研究者」という限界もあるでしょうし、そして単なる知的作業以上の、聖書信仰者であるからこそ見えてくる霊的ダイナミズムが見えない点もあるでしょう。

もう一冊、「イスラーム世界の論じ方」も図書館から借りています。